江戸の日常

□闇桜
2ページ/12ページ

桜の花びらが落ちる寸前か、或いは同時に僕の首筋にヒヤリとした感触が走る。

何時の間に間合いを取られたのか、背中から刀を首筋に当てられていた。

「誰かと思えば…ククっ、銀時ンとこの眼鏡じゃねーか。」
声は耳元、すぐ近くで響いていた。
…当り前か。首に刀当てられてるんだし。


人を小馬鹿にしたような笑い方。
そして、少し視線を後方に向ければ見える包帯。



「…高杉晋助。」



出した声は殺され掛けているというのに自分でも驚くほど冷静なものだった。

「オレの事覚えてるとは、光栄だね。」
高杉は馬鹿にするように笑みを讃え、心にもないような言葉を吐きだす。

「…で、何でおめーがこんな所にいんだ?」
高杉さんの声に少しの殺気が戻り、首筋に当てられている刀が押し付けられる。

多分答えによっては殺す、という無言の脅迫なのだろう。

「知りませんよ。」
僕はキッパリと答えて見せた。
大体、夢で『何故ここにいるか』なんて質問されても答えようがない。
もし答えられるとしたら『成り行き』だ。

しかし高杉さんは僕の答えが気に入らなかったのか、ピクリと眉根を顰めた。
「知らねーだぁ?」
「ていうか、僕的には何で僕の夢の中にあんたが出演してるのかの方が疑問なんですけど…。」
この際なので、嫌味も交えて迷惑口調で答える。

「夢だぁ?」
しかし高杉さんは僕の嫌味に何かを考える様な間を取った後、再びあの人を小馬鹿にした笑みを浮かべた。

「ククっ、おめーココが夢ン中だと思ってんのか?」

「は?」
高杉さんの言葉に今度は僕が眉根を寄せる。

「当り前でしょう?じゃなきゃこんな所に僕はいません。」
「じゃあよぉ、眼鏡。」

高杉さんは片目で僕をじっと見つめる。
背後にいるにも関わらず、見られただけで動けない圧倒的な威圧感。

僕は小さく喉を鳴らして唾を飲み下した。
そして掌を握り締め、次の言葉を待つ。

「これは、どう説明すんだよ?」




高杉さんの意味の分からない問い掛けと共に、首筋に痛みが走った。



「いっ…。」
思わず痛みのある所を手で押さえると、ヌルリとした感触。
恐る恐る掌を見て見れば、そこにはネットリと血液が付着していた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ