江戸の日常

□届かぬ声
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―――新八が万事屋に来なくなってからかれこれ3日が過ぎようとしていた。

「銀ちゃん。」
神楽がソファーに寝転んだまま渡る世間は鬼ばかりの再放送を見つつ、声をかけて来た。
「……んだよ。」
俺も机に足をのせ、ジャンプから目を離さないままその呼び掛けに応える。


「新八、今日も来ないアルか?」

神楽の問い掛けに内心では過剰に反応しながらも、表面上は至って冷静を装いながら次のページを捲る。
「その台詞30分前にも聞いたぞ。」
「…そうだっけ?」
「おぅ。」
そして再び部屋にはテレビの音と、ジャンプを捲る音しか響かなくなった。

ジャンプを見るふりをしつつ神楽を盗み見てみれば、テレビに視線を向けているものの集中出来ていないのが明らかに目に見えていた。
しかも5分置きに玄関の扉をチラチラと見詰めている。

新八の事を気にかけているのが一目瞭然だ。

―――そんなに気になんなら家にでも行きゃー良いのに、素直じゃねぇ奴。

心中で呟いたその言葉が自分自身にも当てはまる事に気付けば、俺は神楽にバレぬよう小さく溜め息を吐いた。
…そうだ。新八の様子が気になるなら会いに行けば良い。
会いに行って、この前の事謝って、また3人で楽しく万事屋やって行けば良い。
新八が来なくなってからの3日間、何度も考えた。

でも実際行動に移さなかったのは、新八が俺の事を拒絶するんじゃないかと思うと怖かったから…。



あの時に見た新八の泣き顔が忘れられねぇ。

その涙を見て見ぬふりして無情にも横を通り過ぎた自分に、今は腹が立って仕方なかった。


自己嫌悪に陥りながら、不意に窓の外に目をやると雨がポツポツと降ってきていた。
普段なら鬱陶しいだけの天気だが、この3日間ずっと俺は雨を待ち望んでいた。

俺がジャンプを机の上に置くのと神楽がソファーから勢いよく起き上がるのはほぼ同時だった。

神楽と俺の視線がバッチリ合う。

…どうやら神楽も考えていた事は一緒だったらしい。

俺たちは天邪鬼同士、ニヤリとお互いに笑みを浮かべると玄関に置きっ放しの新八の傘を持つ。

「ったく、ホントあいつって忘れっぽいよなぁ、世話掛けやがって。」
「全くアル。ほんと新八は駄眼鏡アルな…仕方ないから届けに行くネ、銀ちゃん。」
「おぅよ!」
俺たちは自分たちが傘をさすのも忘れて、半ば走る様に志村家へと向かった。



―――――――――――
しかし、着いた志村家には新八はおらず、お妙が俺たちを見て驚いていた。
「2人ともびしょ濡れでどうしたの?」

「姉御!新八は何処にいるネ!?」
神楽はお妙の問い掛けも耳に入っていない様子でキョロキョロと辺りを見回す。
一刻も早く何時もの新八を見たいのだろう。
…俺も同じ気持ちなのでお妙の返事を黙って待つ。

しかし、神楽の問い掛けにお妙は更に驚いた表情を見せた。

「新ちゃんならここ3日間会ってないけど…銀さんのところにいるんじゃないんですか?」










                        その言葉に、心臓が止まるような錯覚を覚えた。
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