江戸の日常

□こわいもの。
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「ったく、たりぃなぁ。」
何時もの如く文句を垂れながらも、珍しく『仕事』をこなす銀時。

それもそのはず。
銀時の今の財布の中は大変侘しい事になっており、今日この仕事をしなければ家賃は勿論、冷蔵庫には賞味期限ギリギリの納豆しかなくなる、という危機を迎えているのだ。

神も仏もあったもんじゃねぇ、と喚き立てる銀時を哀れに思ってか、お登勢が珍しく仕事を紹介してくれたのだ。

『こんな仕事ならあんた等3人にも出来るだろ。』

そう言って見せられたのは、万事屋からそう遠くはない、随分と昔からある寂れた病院のチラシだった。
ちょうど募集定員は3名。
どうやらチラシの内容を読んでみれば施設内の掃除の依頼らしい。

自給はお世辞にも高いとは言えないものの、今月のジャンプ代にも困っている銀時には選択の余地などなかった。

かくして3人は今、病院の厠内を掃除している。

「文句言わないで下さいよ。この仕事やらないと今晩、納豆で夜明かさなくちゃならないんですからね。」
「んなこたぁ分かってるよ。じゃなきゃ誰が病院の、しかも厠の男子便所の便器なんか磨くかっつーの!」
新八の釘を刺すような一言に眉根を顰めながら銀時は便器を力強く磨く。
新八はそんな態度に溜め息を吐きながらタイルの床をブラシで磨いた。
そして不意にもう一人の姿が見当たらない事に気付き、小首を傾げてブラシを一旦止める。

「銀さん、神楽ちゃん知りませんか?」
「あぁ?さぁ…そういやさっきから見ねぇな。」

銀時も便器を磨く手を一旦休めれば、キョロキョロと辺りを見渡す。

先程まで窓を雑巾で拭いていた神楽の姿はどこにもなく、2人は顔を見合わせる。

「ったく、何やってんだかあの娘は。」
銀時が癖っ毛の強い銀髪をガシガシと掻くと同時に、厠の扉が物凄い勢いで開かれた。

「銀ちゃん!新八!私すごい話聞いたネ!」
そこには先程まで噂をしていた神楽の姿があった。
「神楽ちゃん、どこ行ってたの?」
いきなりの登場に一瞬怯んだものの、神楽の姿を確認すれば新八が問い掛ける。
しかし、興奮気味の神楽の耳には届いていないようだ。
目をキラキラと輝かせ、年相応の少女のように笑っている。


「ここの病院、出るらしいネ!」

その一言に、心配して損した、等と内心後悔して黙り込んでいた銀時の肩がビクリと跳ねる。
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