M-garden

□prologue〜或る川の真ん中で〜
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しかし邪魔をする川が消えたと言うのにあの歌が鮮明になることはない。
そう、消えたのは“川”だけであの喧しい音は続いていたのだ。


“あれは川の流れではなかったのかも知れない”
そんなことをぼんやりと考えだした時、突如視界が漆黒に包まれてしまう。
光を寄せ付けない、闇。
どんなに目を凝らして見ても晴れることのない闇。
途方もない闇に恐れを抱き、それでも抗おうともがいてみせたハウエルの手に突然何かがぶつかる。

手のひらから伝わる、生物独特の体温を感じさせないその物体に恐怖心を抱く。
勿論それ以上触れる必要もないので手のひらを退いてみせるが、何故か動かない。
前へ突き出すことも後ろへ退くことも出来ない。


………、握られてる?
変な憶測が、ハウエルの脳裏をよぎる。
“そんな筈はない。ここには自分一人しかいなかったはずだし、ましてやコレからは人の体温を感じられない。”


高鳴る鼓動のせいで余計に緊張感が漂う――…そんな時だった。


『アアァアァァァッ!!!!!』



手のひらだけではない、緊張でかたまっていたと思い込んでいた体の至る所に黒々とした無数の“手らしきもの”が纏わりついているのだ。

跳ね上がる鼓動も今になってようやく出すことの叶った声も、今のハウエルにはどんな意味も持たない。
ただただ、この場から逃げ出したいと思いひたすら四肢をもって足掻いてみるばかりだ。


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