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「蓮!おっせーぞ!!」
「貴様がせっかち過ぎるのだ、ホロホロ!ここを何処だと思ってる」

夜になったころ、ふらり、と散歩に出たハオは集落墓地に向かう少年二人組に興味を持って付けた。
二人が座り込んだのは、ハオも何度となく訪れたところと同じ場所だった。

墓石に向かって笑いかけ、話し掛けている。

「ほーら、葉。ボブの新曲出たぞー」
「……貴様、何を供える気だ…?」
「でもプレーヤー忘れたから俺が歌うぜ」
「公害だ。やめろ」

なんとなく、彼らもまた葉の大切な人だったんだな、と思った。
ポケットに突っ込んだままになっている葉の名残を指で遊んだ。

葉が好きだったのは何も自分だけではないんだろう

少しでも付き合ったことがあるから分かった。
葉の言葉には良くも悪くも嘘はない。

「……まったく、なんでおまえ死んじまったんだよ、おまえん家、全然おまえに会わせてくれねーし」

ズッ、と鼻を啜る音が聞こえた。
騒がしい方だな、と分かったが、突っ込み専門っぽい方さえも何も言わなかった。

理由だって察していたくせに、

二人はしんみりとしている空気が肌に合わなかったらしく、立ち上がり、またな、と呟くと、来た道を遡って行った。
入れ違いにハオは葉の墓前に立つ。
振り向かない二人に憐れみの目を向けた。

「ほーら、葉。やっぱり生きてた方が誰も悲しまなかったカモだよ」

何度となく足を運んでは、憎まれ口を叩いていた。
返事がないことに対して、時折胸が痛むけれども。

お供えにCDってどうなんだろうとハオは少年が置いて行ったそれを手に取り、まじまじと見た。

「………こんなとこに、葉はいないのに」

墓石の葉と掘ってある部分を指でなぞった。
その地下にあるのは、葉の肉体を構成していたものの一部。
そこに“葉”はいない。

すがるように、拳を握り、目を閉じた。
否応なしに彼の笑顔が瞼の裏に映った。

「………叶えたい、願いがあるのかしら」

不意に降り懸かった声の先にはほんの少し前にはいなかったはずの少女が墓石の上で頬杖をついていた。
さらりと流れる金髪が、素直に奇麗だと思わせた。

「何者」

黄昏れる時間を目撃されて不愉快そうにハオは口をへの字にしながら少女に尋ねた。

「魔女」

妖艶な微笑を浮かべて少女は笑った。

「あなたが人の血を吸わなきゃ生きていけないように、他人の欲を満たさなきゃいけない魔女よ」

一拍おいて、ハオは腕を広げて呆れたように溜め息をついた。

「僕に、それがあるとでも?」
「大切な人を失ったんでしょう?」

少女はトントン、と墓石を指の腹で叩いた。
ハオは目を見開いた。

「………死者を、生き返らせるなんて、」
「出来るわ。甘く見ないで」

CDを元の位置に戻し、ハオは少女に詰め寄った。
憮然と少女は怯みもせずに見つめ返している。

「あたしは、他人の願いを相応の対価で叶えるのが仕事よ」
「対価?」

ハオは眉を寄せて、ふむ、と考えた。
少女は面白そうにハオを眺めて、葉の墓を撫でた。


「いくら?」
「お金じゃないわ」

少女はハオの額を指差した。

「あたしが欲しいのは他人の美徳」

ふふ、と相変わらずな微笑が少女を包む。

「あんたほど、汚い依頼人は初めてよ。だけど、唯一綺麗なの、あんたの大切な彼と過ごした記憶」

説明口調でゆったりと歩き、どう?と少女が肩を揺らしながら振り向きざまに尋ねた。
ハオは額を押さえて考える。

「あんたの記憶が無くなれば、愛しい彼はこの世に戻ってくるわ」

ピク、とハオのこめかみが動いた。
少女を見詰める瞳が凶悪なものに変わった。

「ふざけるな」

ハオの様子が変わっても少女は驚かなかった。
ハオは自分の胸を掴むと不敵に笑い、少女を見据えた。

「誰にも渡すものか」

少女はそう、と呟いて、笑った。

「後悔しないでね、二度と会うことはないわよ、吸血鬼さん」
「しないよ」

夜の暗闇よりさらに暗い闇を少女は作り出し、その中に入ると姿を消した。
いなくなったことを確認するとハオはポケットからビー玉を取り出した。
ひびが入ってもなお、輝きは変わらない。

「葉の、そばにいたかったんだよ」

ハオは膝を抱え込んで座った。

「人の生き死には葉が生きた年数よりもずっと長い間見てきた。もう疲れたんだよ、」

だから、

「………近い内に、葉の家に乗り込むよ」

目を閉じて、その後を想像した。
麻倉によって捕らえられ、仲間に引き渡されて、罪を償わなくてはならないだろう。
つまり、死を意味するのだけれど。

「そしたら、麻倉も葉の一件から立ち直れるだろうしね」

ハオは立ち上がり、一、二回屈伸をすると、散歩コースを歩み出した。

「迎えには、おまえが来てくれよ」

そう呟いて、ハオは闇に溶けた。





数ヶ月後には、もう、謎の変死事件は無関係だった世間の人に忘れられた。
 


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