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□12th May
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12th May



たしかに、「別にもう、誕生日なんて祝ってもらう年じゃない」と、葉はつい先日ハオにそう言っていた。

これ以上、年を重ねて「おめでとう」だなんて、嫌味にもほどがあると思う。

だから、ただ、いつも通りな生活が送れればそれでよかった。


しかし、夕食の買出しの帰り道、CDショップに寄ろうとしたところ、ハオが女連れで歩いている所を目撃してしまったのだ。



イライライライラ



考えてみると、それはアンナと葉とハオの関係に酷似した図だったが、葉にはそれが妙に気に食わなかった。



 オイラ、すげぇ嫌な奴…


自己嫌悪。
しかし、いざ、そういった現場を目の当たりにしてしまうと、何か良く分からない感情が理性をふっとばしてしまっている。









「…ただいま」

「おかえりなさい、葉」


アンナの声がしたリビングに向かうと、そこにはブツブツ言いながら決算予想金額表とにらめっこしている彼女がいた。

なんとなく、今までの自分が嫌になった葉は、後ろからアンナに抱きついた。


「ちょっと、葉。なんなのよ。」

「いいじゃん、ちょっとだけ…」


肩に妙に強く押し付けられているのは目だと確認して、アンナは嘆息をつき、葉の頭がのっている方の手で彼を撫でてやった。


「何かあったのね?…追求はしてやらないわよ。早く立ち直りなさい。」

「・・・おう。」


なんだか、先ほどまでの自己嫌悪感は随分軽くなっていた。


アンナと一緒にいると落ち着ける。

とても些細な優しさがこちらに伝わるときが一番。

例えば、今日の買出しでいつもより余分にお金が入っていたから、ボブの初回限定盤アルバムを手に入れられた。



「アンナ、今日、メシ食ったらこれ食おう。」

「いいわよ、別に。」


これ、と葉がビニール袋からテーブルに取り出したのは、小さな、スーパー等で見かけるケーキだった。


「ほら、早くゴハン作っちゃいなさい。」

「おうよ。」


吹っ切れた葉は習慣化している家事に意欲的に取り込んだ。

その様子を見て、アンナはバレないように小さく笑った。

これみよがしな優しさは本物ではないから。



今日だけは、早く寝てあげよう、と頭の隅で思った。

だけど、就寝前に葉におやすみのチュゥを忘れないようにしよう、と心に誓った。


* * *

「今晩は」


夜になって、やっぱりハオは来た。


「…用件は?」


葉がそう言うと、ハオは持ってきた袋から酒瓶を取り出した。

しかも日本酒『鬼殺し』。


「お祝いはしないけど、とりあえず、乾杯しよ、飲も。」

「…オッサンくせぇ…」

「仕方ないよ、僕、こう見えて1021歳。」


ハオは笑って、半ば強引に葉の部屋にあがった。



電気を点けるのが面倒で窓際のテーブルと椅子の方向へ向かい、葉はさっさと自分の場所を確保した。




「言っとくが、オイラ誰かさんの遺伝か分からんけど、酒強ぇんよ。」


多分、お前の思惑通りにはいかねぇな、と葉は嘲笑った。


「…あのさー、僕だっていつもいつも盛ってるわけじゃないよ。」


どうだかな、と言う返事酒を注いで、これまた持参したグラスを渡した。


「まったくもう…何を怒ってるんだか。」

「誰が怒ってるんよ。」


日本語話せバーカ、と葉が悪態をついた。

にも関わらず、ハオは突然、嬉しそうに笑いはじめた。


「・・・葉カワイイね・・・」

「・・・はぁ??」


カワイイ言われて喜ぶ男がどこにいる。

そう吼えるのを牽制するかのようにハオは細長いラッピングされた箱を葉に投げ渡した。


「夕方、マッチを連れて買いに行ったんだ。センスは悪くないと思うよ。」


ふ、と目撃した光景を思い出し、勝手な勘違いだったのかと思うと、急に恥ずかしくなった。


「…っつーか、…視たんだな。」

「うん。バッチシv五面。なんちて。」


アホは放って、葉はラッピングを解くことにした。



「ありがと」


突然、ハオの発した言葉に葉は目を丸くした。


「何がなんよ、それはオイラが言うべきコトだろうが。」

「んーん、なんとなくね。 ありがと。」


月光でよく映えた端整な顔が満面の笑みでそう言った。

葉はなんだか恥ずかしくなって、そっぽを向いた。


酒を飲み込み、自分に言い聞かせる。

顔があつい気がすんのは酒のせいだ。



「おかわり!」

「はいはい。…って、葉酒くさ。」

「うるせえ。」











ありがとう

生まれて来てくれてありがとう








「おめでとう」と言われるよりも、何よりも自分を肯定してくれる言葉は、何よりも恥ずかしく、何よりも嬉しい言霊でした。









「…で、葉からは?」

「もしあったら、明日は雨や雪どころか槍が降ってくるだろうな。」

「同感。」








「ありがと」





もう言わねえからな、と葉は赤くなりながらそう呟いた。




「…どうしよう、葉。」

「なんよ。」

「…盛って来た。」

「!お前、さっきと言ってることメチャクチャじゃねぇか!!」

「テヘ☆」



ぎゃぁぎゃぁ文句言いつつも、結局、深く口付けられて、あまり抵抗しない自分に気付いた。

やっぱり惚れてんだろうな、と思うとまた一段と赤くなった気がした。










happy twins'21st birthday!!

many loves will be on you.


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