::SK::
□サクラ
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サクラ
ポカポカと
天気が良すぎる小春日和
桜は咲いて
山が桃色に見えるのです
修行後の疲れたからだが、休憩を求めるのは仕方ないことだと思います。
「あ、葉じゃん」
そう思って、ハオはS.O.Fのオーバーソウルを解いて、彼のそばへと寄った。
桜の幹に寄りかかり、その影によって得られたちょっとした幸福に身を委ね、スヤスヤと眠る様子に苦笑するなというほうが、酷な話だろう。
「まったく…持ち霊もつけないで…まぁ、葉なら有り得る事か。」
よっこいしょ、とハオは葉の隣に腰を下ろした。
安眠を妨害する訳にはいかないので、少し離れたところに。
それでも、ハオのちょっかいを出したい、という衝動は抑えきれず、とりあえず、そっと葉の顔を覗き込んでみた。
「………」
修行のせいかそれとも他のことの為からか、疲労の色が隠し切れていなかった。
それを思うと、笑顔という表情の効果がどんなに素晴らしいことかがうかがえる。
「…さっきからいるんだろ?出ておいでよ。」
「やぁ、こんにちは、アンナ」
「気安く名前を呼ばないで。」
アンナはきっ、とハオを睨み付けた。
「そう怒るなよ、ちっちぇヤツだなぁ。ところで、何の用でここに来たの?」
「葉が修行終わってからフラフラどっか行っちゃったから、探しに来てみるとAHO兄貴がいたってだけよ。」
「酷いなぁ、AHOはないでしょ。どっかのバカのウケウリ?」
ハオは軽く、バカにしたように笑うと、立ち上がり、桜を見上げた。
「…似てるわね。」
アンナがボソリ、と柄にもなく呟く。
ハオがそれを聞き逃すはずもなく、その言葉に返事をした。
「そりゃぁ、仮にも双子だしね。」
「アンタ達のことじゃないわよ。」
ハオが「じゃぁ何」と言いたそうな顔でアンナを見ると、彼女はあごで指しながら答えた。
「アンタと、その桜よ。」
「…へぇ、君にしては、珍しい褒め言葉だね。」
ハオが皮肉を込めて、そう言うと、アンナはそれをさらに皮肉った笑いを浮かべた。
「褒めてなんかいないわよ。
むしろ、貶しているんだけど?」
アンナは歩を進め、葉から少し離れて隣、無論、ハオとは反対の方の桜の木に手をあてた。
「このサクラの種類、分かる?」
「…ソメイヨシノだろ。僕が見たのは今生で初めてだったよ。」
「えぇ、改良品種ですもの。」
アンナはハオを小ばかにしたように目を向けた。
「…何が言いたいんだぃ?」
「…サクラは昔から『潔く散る、儚い花』だと言われているわ。
…江戸時代の武士が自分に当てはめたり、戦時中の軍歌もまた良い例よね。」
その間も花びらはヒラヒラと散っていた。
「らしいね。でも、平安時代辺りでは山桜が主流だったし。」
「新種なんだから当たり前でしょ。」
「はいはい。で?」
ハオが催促すると、アンナは出し抜けに妙な質問を投げかけてきた。
「桜の寿命って知ってる?」
アンナの問いにハオは笑って答えた。
「栄養の整ったものなら裕に50年以上は持つらしいけど」
「じゃぁ、これは?」
これ、とアンナが言ったのは紛れもなく。
ハオも釣られてそれを見た。
ソメイヨシノ
「…本当に思うのよ。アンタとこの桜は似ているってね。」
「…どこがだい?」
「ソメイヨシノはせいぜい10〜20年。だけど山桜は違うとアンタも言ったわよね。
葉とアンタも違う。
アンタはもう枯れてるけど、葉は今からが咲き誇るの。」
風が、ハオの長い髪を大きく巻き上げ、マントがバサバサと音を発てた。
アンナは挑発しようとばかりな笑みを浮かべている。
「……変なこと言うねぇ、君は」
ふいにS.O.Fを具現化し、その手のひらに飛び乗った。
「逃げるの?」
「別に。まぁ、葉のかわいい寝顔も見れたし、満足して帰ろう、ってとこかな。」
次に花びらを散らせた風はハオがつくったものだった。
「…ん……」
アンナがハオのいた所を睨みつけていると、突然、未だに眠たそうな声が上がった。
「葉、起きたの?」
「…おー。」
葉はダルそうに声を上げると、右手でふらつく頭を抱えた。
「どうしたの?」
「…いや、夢見が悪かっただけなんよ。」
「…夢?」
暗い闇の世界で自ら輝いているかのように桜だけに色がある。
近寄ると、アナタが桜の養分となるかのように埋まっていた。
―桜が紅く染まるのは、その根元に死体があるからである―
アナタの手が紅く染まるのは、その根元に何があるからなのでしょう?
(fin)