::SK::

□vampire de amour
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麻倉家の誰もが青い顔をしていた。
ついに、もう、ダメだ。

陽が落ちてすぐにハオは葉の部屋へと直行した。
葉の顔は信じられないくらい、青い。

微かに感じる生と、強烈な臭いを放つ死が葉を包んでいた。

ハオは、葉の、薄く開かれた唇に手を伸ばした。
プールになんて入っていないのに、その色は紫に近い。

唇から顎のラインを伝い、頬を包み込んだ。

心の中で、サヨナラ、と叫んだ。

葉の首筋に唇を近付けた。

「―――ハオ、か」

名前を呼ばれて、ハオは笑った。

「うん、僕だよ」

葉の目が、薄く開かれ、瞳にハオが映った。

「ど、したんよ」
「―――連れに来た」
「……………そか」

葉は髪を片側に束ねて、首筋を露にした。
驚愕の色を浮かべるハオに葉は力無く笑った。

「………いつ、気付いたの」
「……何となく、最初からだよ。確信に変わったのは、時々、瞳の色が変わったから、かな。仮にも、元麻倉の跡取りだったんよ、オイラ」

やはり、少しくらい勉強していたようだ。
そしてその反応は欲情したときの性だ。

「、ほらな、今も……」

ハオの目を指した葉の指を無視し、その手首を掴んだ。
拒否するものは何も無い。

ハオは葉の唇を塞いだ。

静かに離すと葉の瞳を真摯に見据え、口を開いた。

「僕は、葉の血が欲しいんじゃ無い。葉が、欲しいんだ」

葉は、嬉しそうに微笑み、自由な手でハオの頬を優しく包んだ。

「…ありがとな、でも、ゴメンな」

ハオの瞳に哀しみが過ぎった。

「……確かに、オイラはもう死ぬ。だけど、ハオの血を少しでも混ぜたら生きていられるんだろ? 吸血鬼として」

ハオは、自分の耳を塞ぎたくなった。
喉より下の辺りから、耳が詰まっていくのを感じる。

「……そんなオイラ、オイラじゃないだろ? でも、お前がオイラの血を飲んで、生きるなら、オイラはそれが、1番嬉しい」
「………僕に、葉を殺せと言うの?」
「…オイラは、お前の中で生きるんよ」

ハオは猛然と立ち上がり、葉を睨んだ。

「そんなの偽善以外の何ものでもないね」

ハオは足早に何時ものように窓から出て行こうとした。
違うのは時間帯と、もう二度とこの部屋に踏み入れることはないということ。

「残念だったよ、葉」
「そりゃスマンかったな。でも、オイラは、ハオのこと結構好きだったな」

最後の言葉を言うや否や、ハオはもういなくなっていた。

葉はハオが出て行った窓を見詰めながらうっすらと笑った。

「さよなら」

数時間後、ハオの嗅覚が、葉の生を感じることは出来なくなってしまった。


ハオはぼんやりと、していた。
自分が昨夜、何をしたのか、よく分からない。
ただ、この世にもう、彼はいない。
しかも、結局自分は彼に何もしなかった。

住み処としている廃墟のボロボロなカーテンから太陽光が差し込んだ。
もう、こんな時間かと、寝床に行こうと立ち上がると、ポケットに入れっぱなしにしていたビー玉が転がり落ちた。

反射的に拾おうと追い掛け、掴んだは良いが、手の甲が陽に当たり、肉が焼ける音と臭いがした。

「っつ……」

せっかく拾ったビー玉はまた音を立てて落ちた。
今度は足元だったのでしゃがみ込んで押さえた。
掴んで、見てみると、今の衝撃で割れている。

葉の姿が脳内を駆け巡った。

「何が……好きだっただよ…」

胸が締め付けられた思いで、余りにも痛すぎる。

「葉なんか………!」

自分の気持ちの正体は分かってる。
だけど、それに名前を付けたら、もう


カーテンの裂け目から太陽光が覗く。
ハオは“人間”を手放してから、まったく光の中を歩くことは出来なくなってしまっていた。
それは自殺行為である為だ。

だけど、どうやら、ハオの中に光が現れていたようだ。
失った今は、闇に苦しんでいる。

光がなかったころには感じなかったことを、手からすり落ちてしまったものが教えてくれたようだった。

いっその事、知りたくなかった。

「………葉……」

はじめて、誰かを愛しく想った。
目を閉じて、諦めたように呟いた。

愛しい彼に向けた愛の言葉を

 

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