真冬の恋

□初雪が降るまでに
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「さむっ…」


思わず声に出してしまった


つい最近やっと秋めいてきたと思っていたところだったのに

もうすぐそこまで次の季節が近づいているみたい


あたしとほぼ同時に『さみー』と呟いてポケットに手を突っ込んだ先輩


「もうすぐ冬か」


と不満そうに続けたけれど、あたしは待ち遠しいんだ



もうすぐ街にはあちこちでツリーが飾り付けられたり、電飾が輝いたり、有名な曲が流れたり賑やかになるんだろう


そう思うと今年もやってくるんだとわくわくする

待ちに待った大好きな季節
今年はさらに特別になりそうだ



だってそれは



「何笑ってんだよ?」

「え、笑ってました?」

「おう」

「へへ、もうすぐ冬だなーって思ったら嬉しくて」



今年は三井先輩がいるから


大好きな人と過ごす初めての冬がやってくる




「冬なんてカラダ暖まるまで時間かかるし、ケガしやすくなるし、いいことねーだろ」


あくまでも冬を否定する先輩

何に関してもバスケのことばかり

たまにはあたしのことも考えてくれたらな、なんて思うけど仕方がない

バスケしてる三井先輩を好きになったのだから




「寒い季節だけどあったかい季節でもあるんですよ?」


そう言うと、三井先輩は明らかにハテナを浮かべて

「お前って時々わかんねーこと言うよな」

と言った




今はまだわからないことも多いけど


同じものを見て
同じことを思えたら

どんなにしあわせなんだろう






彩子に用事があって覗いた体育館

正直、バスケに興味があったわけじゃないけれどみんなの迫力あるプレーに圧倒された

そしてとある選手が放ったシュート
ジャンプからボールを放ち、綺麗な弧を描いてリングに吸い込まれていくまで

一瞬だったけれどスローモーションのように見えた

もうその人しか目に写らなかった



それから毎日のように練習を見に行くようになった

ある日リョータと喋っている時、三井先輩から話しかけてくれた

何でもない会話だったけれど、あたしのびっくりし過ぎてオドオドしている様子に先輩は笑った


その笑顔にあたしは心を完全に掴まれてしまったんだ


それからは彩子やリョータも交えてたまに休憩中に話したり
二人の策略で三井先輩と二人きりで帰ったり

緊張して、何を話したかあまり覚えていないくらい

だけど一緒にいれるのが嬉しくて
ずっとずっと一緒にいたくて


ある日の練習終わり
精一杯の気持ちを伝えた

「先輩が好きです」


先輩は驚いたように目を丸くして、でもその後あたしの頭にポンと手をのせて


「そういうことは男から言わせろよ」


そう笑顔で言ってくれた

最初はどういう意味か理解できなくて、でも先輩も同じ気持ちだとわかったときは

嬉しくて嬉しくて
気持ちが通じあうってこんなにも幸せなことなんだと思った





こうして晴れて三井先輩の彼女になれたけれど
実際はまだ『付き合っている』なんて形だけ

今も付き合う前とあたしたちは何も変わっていなくて

まだまだわからないことばかり


もっと三井先輩を知りたい


もっともっと近づきたい


だからとりあえず
何か変化が欲しいから




「三井先輩」

「ん?」

「…名前で呼んでも、いいですか?」


すごく不安だったのだけど、恐る恐る先輩の顔を見ると
先輩はあの時と同じ笑顔でまたあたしの頭に手をのせた


「当たり前だろ。オレもハルキって呼ぶから」


少し照れ臭そうに先輩は笑う

まずは第一歩
少しだけ近づけた気がして嬉しい

そして先輩はあたしに、これからは敬語も禁止、と続けた



すぐには難しいけれど
これも少しずつ直していこう





大好きな季節を
大好きな人と


『恋人』として迎えられるように






fin.

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