真冬の恋

□冷たい手でもいいよ
1ページ/2ページ




『三井先輩』から『寿先輩』に呼び方が変わってしばらくが過ぎた


最初は『先輩』はいらねぇだろ、と不満そうだった寿先輩だけど、渋々承諾してくれた

だって1つ年上なのだから『先輩』と呼ぶ憧れはあったし、かといって『三井先輩』では他のみんなと同じ

少し特別でありたいから『寿先輩』にしたのだから


毎日練習を見に行って、終わってから一緒に帰っている

学年は違うけれどこうして毎日会えるし幸せだ、と思っていたのだけれど





「アンタたちどこまでいったの?!」
「あの三井サンのことだし、手早いんじゃない?!」
「ダメよハルキ、嫌なら断らないと!」
「イヤ〜アヤちゃん、それは男として傷つくって」
「何言ってるのよリョータ!こういう時傷つくのは女のほうに決まってるじゃない!」


「「で、どうなの?」」


練習終わり、二人してニヤニヤしながらやってくると思ったらこの話題


「え?あ、いや、えっと…あ、寿先輩だ!!じゃあ、帰るね!バイバイ!」

「あ、ちょっとハルキ?!」


先輩はまだ着替えているみたいだけど、無理矢理二人から逃げる

最近、敏感になっているこの話題


他の友達からも『展開早そうだよね』なんて、言われたりする
『そんなことないよー』なんて曖昧に返事をしているけれど


実際は、展開が早いだなんてとんでもない


何も展開していないのだから



先輩はあたしに興味がなかったらどうしよう
なんて少し不安になっている



いつもは先輩が着替えるまで、彩子と喋っていたり、片づけを手伝ったり体育館で待っているのだけど
二人から逃げてきたから部室まで来てしまった


ドアは半開きだけれど中の様子は見えない

体育館にほとんどみんな居たから、たぶん部室にいるのは寿先輩だけだと思うんだけど…

いいよね?

一応ノックをしてから呼んでみた


「寿先輩?」

覗き込んでみると、まさに着替え真っ最中のようで上半身裸の寿先輩が


「おぉハルキ、どうした?」

「わぁっ?!す、すいません!!」


慌ててぐるりと背を向けると、後ろから笑い声


「いや、真っ裸じゃねぇんだし、んな慌てるほどじゃねぇだろ」

「あ、だって…びっくりして!」


「まぁ、中入れよ」


まだ笑っている寿先輩

そっと部室の中に入り、背中を向けている先輩に改めて目を向ける
鍛えられた身体を初めて目の当たりにして、ドキドキする

細めだと思っていたけれど想像以上に逞しい



「なんでこっち来たんだ?」


タオルで身体を拭きながら目線をこちらに向けた先輩と目が合って慌てて目線をそらす

見惚れていたのを隠したくて


「あ、彩子たちに尋問されそうだったから逃げてきちゃいました」

「尋問?」

「あ、えっと。寿先輩のこととか」

ちょっと戸惑いながら答える
すると、シャツを羽織った先輩は振り返る

「お前にもか?宮城のやつオレにもしつこく聞いてくるぜ」

「え、そうなんですか?」

「あいつらオレ達のこと面白がってるだろ。ったく…」


ため息をついた寿先輩
でも、きっと先輩もわかっているはず
あの二人も私達のことをからかいながらも応援してくれていることを


「でも、すごく感謝してますよ?」

「あ?」

「だって、あの二人のおかげで今こうして先輩と一緒にいれるんだから」


そう
彩子と仲良くなかったら
バスケ部の練習を見に行かなかったら
二人の協力がなかったら

先輩と付き合うこともできなければ、もしかしたら好きになることもなかったかも

本当に感謝している

先輩はあたしの顔を見て、少し不服そうに呟く


「…まぁ、そうだけどよ」


素直に認めようとしない先輩
クスリと笑うと、「なんだよ」と言う


本当は可愛いなぁ、なんて思ってしまったのだけど何でもないと首をふる

先輩はすごく照れ屋できっと認めてくれないから


バスケをしてる先輩を好きになったけど、話すようになって
そして付き合って、先輩のイメージが変わっていく

いろんな表情の先輩を知る度に
どんどん好きになっていくのがわかる

こんな先輩を知ってるのはあたしだけだといいな


そんなことを考えている間にいつの間にか着替え終わっていた先輩


「帰るか、あいつら戻ってくるとまたうるせーし」

「ふふ、そうですね」


部室を出ると、体育館からはまだ賑やかな声が聞こえている


それに背を向けて下駄箱に向かった
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ