Dream

□black or white?
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「ねぇ神、あたしって魅力ないのかな」

放課後の図書室には本を読んでいる人はもちろんだけど、中には彼氏彼女の待ち合わせをしている人なんかもいて。
手をつないで仲良く出ていく二人を横目にため息を吐く。
本なんて全く読まないあたしがなんで図書委員なんてなっちゃったんだろう。

隣には分厚い小説を読んでいる同じく図書委員の神宗一郎。
視線を本に向けたまま「どうして?」と涼しい顔で言った。


「…どうして……って聞く?もう1回話そうか?」

もう話したくなんかないけど今まで散々話したでしょう、と嫌みを込めて言ったら神は


「話してもいいよ?浮気されて結局浮気相手に乗り換えられたって話でしょ?」


爽やかな笑顔でさりげなく私の辛い過去を繰り返すという高度な反撃をしてきた。

ただ者じゃないな、神宗一郎!!


だけどもう開き直ることもできないくらい今回は落ち込んでいたりする。

すごくすごく大好きな人だったから。
もうさすがに好きな気持ちは消えてるけど、裏切られたショックは大きくて。

あたしは好きになると一直線になっちゃうタイプだからそれが重かったらしい。
しょうがないじゃん、不器用なんだよ。
目の前の恋に一生懸命なだけ、ただ好きなだけなのに。


「なんでわかってもらえないんだろう……」


机に突っ伏してまた大きくため息をつく


「なんでだろうね」


全く興味がないといったような返事をする神。

そりゃそうだろう。
2年生ながら強豪バスケ部のレギュラーで、成績も常に上位で、女の子からの人気も高くて
そんな何もかも上手くいってる神からしたらあたしの悩みなんてどうでもいいよね。

そういえばこの前1年生の可愛い女の子から告白されたって噂を聞いたけど付き合ってるのかな。


あーあー羨ましい!!
あんたには恋の悩みなんて皆無でしょう?

神に目を向けると相変わらず涼しげな顔で本を読んでいる。
その姿すら様になっていて、格好いい人は何をやっても格好いいんだと思い知る。

悔しいけど。



「なに?」


神は本から視線を外すことなく言う。


「えっ?いや…神は恋の悩みなんてないんだろうなぁって」

「あるよ」

「え?あるの?何で?1年生と付き合ってんじゃないの?」

言うと神はやっと本から視線を外してあたしの方を向いた。
ビックリしたような困ったような顔で。


「誰とも付き合ってないよ。まだ…ね」

「まだ?」

「これから告白するつもり」


そう言ってにこ、と笑う神。
よっぽど自信があるのか、その笑顔はすごく眩しい。

神につられてあたしも少し笑う。
なんだか応援したくなる。


「そっか。それにしても意外だなぁ、神が片思い中だったとはね」

「そう?結構前からなんだけどな」

「ますます意外!でもなんか親近感わいちゃうなぁ。頑張ってね、応援するから!」

そう言うと神はすこし真面目な顔で本当に?とあたしに問う。

「うん、もちろん!」

即答すると神はすぐまたいつもの笑顔になった。


「それなら安心だ」

「でしょ?」


……ん?安心?どういうこと?
でしょ?と答えたもののどういう意味なのかわからない。
頭を捻って考えようとしたけれど神の言葉で遮られる。


「じゃあお礼に最初の質問に答えるよ」

「え?質問?」

あたし何か神に質問したっけ?


「相手にした男が悪かっただけだよ。過去の人がどう思ったかは知らないけど」

相手?過去?えっと……
あ!!もしかして―――


「俺には十分魅力的だよ」


……へ?

明らかに状況を飲み込めず疑問の表情を浮かべるあたしと、頬杖をつきながらあたしを楽しそうに眺めている神。

最初の質問を思い出したと思ったけど……。
まさか、ねぇ?そんなことあるはずがないし。

と思っていると

「わっ?!」

いきなり椅子をクルリと回されて神と向かい合う状態になっていて。
さらに神はあたしの顔を覗き込むようにして目を合わせて言う。


「オレ好きになるとその子以外見えないから安心してね」

「…え?」


いきなりの至近距離に戸惑いながら聞くと、神はにっこり笑ってからあたしの目を見据えて


「オレは絶対浮気なんてしないってこと」


とはっきりとした口調で告げた。

神があたしを見つめるその目は真っ直ぐで。

この人は嘘なんかつかない、人を裏切ったりしない人なんだと思った。



今のあたしには神の言葉が何よりも心に響いて、見つめられている大きくて奇麗な瞳から目が離せない。


信じられないけど本当にドッキリかと思うくらい信じられないけど、あたしのことを……想ってくれてる…のかな。


そう思うと急にすごくドキドキして恥ずかしくて。
思わず目を逸らしてしまおうと思ったけれど、それよりも先に神がいきなり立ち上がった。


「じゃあオレそろそろ部活行かなきゃ」

「…へ?」


あたしは既に告白された時の返事を考えていたというのに、神は部活へ行くと言う。

何?今までの流れ的にそれはおかしいんじゃない?拍子ぬけもいいとこだ。

まだ肝心なことを何も言われていないのに。


じゃあね、と立ち去ろうとする神を慌てて呼び止める。


「ちょ、ちょっと待って!あたし、何が何だか……」

「あ、部活終わってから自主練あるんだけどそれも終わるまで待っててね」


「……はい?」


質問完全無視なんですけど…!!
ていうか、部活が終わるまで待てって…?!
ますます頭の中がパニックになる。


「付き合ってるんだから一緒に帰るのは当然でしょ?」


本当に当然のような口ぶりであたしの方が間違っているのかと疑いそうになる。

付き合ってる――?

ううん、違う。だって告白なんてされてないし、第一…

「あ、あたし付き合うなんて一言も……」

「あれ、でも応援してくれるって言ったよね?」


思い起こせば数分前。
神の片思いを応援すると、確かにあたしは言った。

確かに言ったけど……!!


「あ、あれはそういう意味じゃ――」

「じゃあダメだった?」


否定しようとするあたしだったけど『ダメか』と問われれば

「……ダメ…じゃない」

と答えるしかない。

神の真っ直ぐな目で見つめられたとき
あたしの心がどうしようもなくドキドキしていたのは事実だから。


そう言うと神はまた爽やかな笑みを浮かべてじゃあまた後でね、と図書室を出て行った。




それを茫然と眺めながら思う。


どうやら初めからあたしに選択権はなかったらしい。


もしかしてこれは全部……策略…?!



あの真っ直ぐな瞳に嘘はないと信じてるけど



あの爽やかな笑顔に裏は



あるような気がする。







fin.

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