Dream
□その一言が聞きたくて
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放課後の体育館
最近は毎日のようにここにいる
なんでも、1年生マネージャー“晴子ちゃん”が、IHで怪我をした“桜木花道”のリハビリの手伝いに行っているらしい
そこで、人手が足りないという彩子の頼みで、晴子ちゃんが戻ってくるまであたしがマネージャーを務めているというワケ
マネージャーって仕事は、すごく忙しくて、重労働だけど、それ以上にやりがいがある
もともとバスケは好きだし、引き受けたからにはいい加減にはできない
それなりに楽しんでやっている
だけど、そんなあたしを邪魔しようとする人物がいる
それは
「なぁなぁ。お前さー、彼氏いねぇの?」
「いませんよ」
「じゃ、好きな奴は?」
「さぁ、どうでしょうね。いても、三井先輩には教えませんよ」
「なんでだよ?せっかくこのオレが相談にのってやろうってのに」
「結構です。あ、ホラ。休憩終わりですよ!早く行かないと!!」
「わーかったって!ホラよ!!!」
あたしが先輩の背中を押して、コートに向かわせると、先輩は汗を拭いたタオルをあたしの顔めがけて投げた
「わっ?!ちょっと!!先輩!!!」
あたしが怒っても、先輩は楽しそうに笑うだけ
それはもう、イタズラ好きの子供みたいに―――
その笑顔にときめいてるあたしってバカだよね
三井先輩は、何かとあたしに絡んでくる
周りからも、三井先輩のお気に入りと言われるくらいだ
そりゃあ、最初は嬉しかったよ?
今までは見てるだけだった先輩が、話し掛けてくれるんだもん
この仕事を引き受けたのも、“三井先輩と親しくなれるかもしれない”って、ほんの少し期待していた部分もあったからだし
でも、でもね
親しくなればなるほど、感じてしまう
三井先輩が彼女をどれだけ大切に思っているか
三井先輩のバスケに対する思いをどれだけ彼女が理解しているか
ふたりがどれだけ固い絆で結ばれているか
嫌でも見せ付けられる
ねぇ先輩
どんなにあたしが傷ついてるか知らないでしょ?
先輩が彼女の名前を口に出すだけでも、胸が痛むんだよ?
ふたりが幸せそうに笑いあう姿を目にするだけで、胸が張り裂けそうになるんだよ?
それを思い出しただけで涙が溢れるの
もう傷つきたくない
もう先輩に会いたくない
もう先輩のことなんか忘れてやる
そう思っても
あたしの大好きな笑顔で“よぉ”と声をかけられると心が満たされてしまう
そして、また放課後には体育館へ向かうんだ
あなたの笑顔に誘われるように
fin.