S 最後の警官

□約束の
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「ふ、」
「……桜月?」
「ごめ、……何か、伊織がそんな可愛いこと考えてるなんて、思ってなくて……ふふふ、」



……何がツボに入っているのかは分からないが、こちらの深刻さは彼女には伝わっていないらしい。
その証拠に笑いを堪えきれず目尻を押さえて涙まで拭っている。

ちょうどそのタイミングで包装が終わったことを告げられて、まだ笑いを止められない彼女をその場に置いて会計を済ませる。
そのまま店を後にしようとしたところで『待って待って』と慌てて追いかけてきた桜月。



「ねぇ、伊織」
「……何だ」
「何で2セット?それって片耳ずつ着けるものでしょ?」
「お前、まだピアスホール完全じゃないだろう。
片耳だけに着けたらもう片方塞がるぞ」
「蘇我さん、優し〜い」



そう言って腕に絡みついてくる彼女を振り解く気にもなれず、半ばぶら下がるようにして寄りかかってくる彼女を引きずるように家路を急ぐ。

玄関をくぐったところで渡そうとすれば『ムードがない!』と制されて、先にリビングへと向かう桜月。
変なところで拘りが強い、と小さく溜め息を吐いて彼女の後を追う。
数秒遅れてリビングに入れば、ソファに座りこちらを向いて既に喜色満面の桜月と目が合う。



「渡す前から笑うな」
「ふふふ、だって嬉しいじゃない」
「…………桜月、」
「うん?」
「少し早いが、誕生日おめでとう」
「ふふふー、ありがと!」



彼女の隣に腰を下ろして先程購入したピアスを手渡せば、照れたようで幸せそうな笑顔の桜月。
当初のプランとは違ってしまったが、この笑顔は悪くない。



「あ、早速着けてみていい?」
「それならピアスを消毒してからにしろ」
「心配性〜」
「煩い。こっちのピアスは消毒するからお前はそのピアス外しておけ」
「はーい」



包装を丁寧に開けて取り出されたピアスを一度取り上げて、彼女のピアスホール用の消毒液で消毒する。
念の為、自分用のピアスも消毒した後で振り返れば『あれ?』と耳を……厳密にはピアスを押さえながら眉を寄せている桜月の姿。



「取れないのか」
「……これ、どうやって外すの、?」
「…………はぁ、」



考えてみればピアス初心者。
ましてやファーストピアスとなれば外し方も分からないのは至極当然のことか。
貸せ、と一応の断りを入れてから彼女の耳からピアスを外す。
昨日見た限りでは問題なさそうだったが、ピアスを外した状態で再度ピアスホールを確認。
……問題はなさそうだ。
先程消毒したピアスをそっと彼女のピアスホールに入れて後ろからキャッチを填める。
もう片方もホールを消毒した後にピアスを填める。
ファーストピアスよりも輝きを増した彼女の耳。
散々悩んだ挙げ句、結局自分が選んでしまったがこのピアスで良かったのではないか。
そんなことを考えていたら、両手で顔を覆った彼女が深い溜め息を吐いた。



「桜月?」
「何か……」
「何だ」
「……もう何もいらない」
「は、?」
「だって、伊織がカッコ良すぎて……」
「馬鹿か」



急に何を言い出すかと思えば。
呆れて溜め息を返すと『だってプレゼントのピアス着けてくれるとか何てご褒美?』などと訳の分からないことをほざく。
自分の世界に飛んでしまった彼女は放置して、置いたままにしてあった自分用のピアスをホールに填める。



「ふふふふふ、」
「何だ、気持ち悪い」
「お揃いだな〜って思って?」
「……ペアがいいと言ったのはお前だろう」
「そうなんだけどさ、ふふふ……」



何が可笑しいのかは分からないが、やけに幸せそうに鏡でピアスを確認している桜月。
……まぁ、喜んでいるならこちらとしても良かったとは思う。



「ね、伊織?」
「何だ」
「ふふふ、ありがとね」
「……約束だったからな」
「伊織のそういうとこ、好き」



誕生日祝いと普段の罪滅ぼしのつもりだったが、ここまで喜ばれるとは思っていなかった。
幸せそうに笑いながら抱きついてきた桜月の腰を抱き寄せて、不思議そうに顔を上げた彼女にゆっくりと唇を寄せた。


*約束のセカンドピアス*
(まだ誕生日じゃないけどすごーく幸せ)
(……、)
(うん?)
(いや……)
(あ、誕生日当日も一緒にいられたら嬉しいけどそこは無理しないでね)
(お前は……たまに察しがいいな)
(そこはほら、何となく?)
(努力はする)
(ふふふ、そういう風に考えてくれてるって分かってるから大丈夫〜)


fin...


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