コウノドリ長編

□六話
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「いただきます」
「どうぞ…お口に合えばいいんですが」
「ん……美味しい」
「本当、ですか?」
「うん…すごく美味しいです」



煮物も豚汁も、全てが好みの味だ。
暖かい料理を食べるのが久しぶりという相乗効果もあるのかもしれないが、それにしても美味しい。

仕事が忙しいのを言い訳するつもりもないが料理自体をあまりしない。
そもそも料理全般苦手で、料理に当てる時間があるなら医学書を読んだり睡眠に当てたりする方が自分の為になる。
だからこそ料理ができる人は無条件に尊敬するし、純粋にすごいと思う。



「こういうの、すごく久しぶりな気がします」
「………?」
「普段あまり食堂にも行かないし、手軽に食べられる物ばかりなので。
僕自身、料理ができないってのもあるですけど、こういう…温かい食事も、家庭料理もすごく久しぶりです。
しかもこんなに美味しいなんて、思い切って連絡して良かった」
「…あんまり褒めても何も出ませんよ?」
「もう十分なくらいにいただいているので大丈夫ですよ」



顔を見合わせて、ふふっと笑う。
この穏やかな時間の心地良さは何だろう。
どうしてこんなに胸が暖かくなるのだろうか。

……これ以上、深く考えるのは止めよう。
らしくない考えが顔を見せてしまう気がする。



「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
「いえ、本当に美味しかったです。この前、ぶーやんでご馳走した程度では申し訳ないくらいですよ」
「サクラさん、褒めすぎですってば」



食後のコーヒーにお手製のプリンまでご馳走になって、文字通りお腹いっぱい。
こんなにゆっくり食事をするのも、美味しい料理を口にするのも、……こんなにも心が満たされたのも久しぶりだ。



「………あの、」
「はい、?」



下心はない。
ただ、先程述べた言葉は本心で。
安い居酒屋(しかもお互いによく行く豚足料理専門店)で軽く食事したくらいの食事代と今日の彼女の料理とでは差がありすぎる。

しかし、材料費を支払うと言ってもきっと『お礼のお礼ですから』と断られるだろう。
短い付き合いではあるが、彼女の人となりは何となく分かっている。
それならば、



「また、どこかに食事に行きませんか?
今度はぶーやんではなくて…探しておくので」
「えっ?」
「あ、えーと、こんなにたくさんご馳走になってしまったので」
「お礼のお礼って言ったじゃないですか」
「いや、ぶーやんの食事代だけでは申し訳ないくらいにご馳走になったので、良かったら是非。
本当に美味しかったですから」
「…じゃあ、もし予定が合えば、ご一緒させてください」



きっと断り続けるのも申し訳ない、と思ったのだろう。
苦笑気味に了承してくれる桜月さん。
また食事に行けると思うと嬉しい、と湧き上がってくる気持ちにそっと蓋をして、コーヒーを口に運んだ。


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