コウノドリ

□美味しい時間
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「…ふふ、」
「どうかした?」
「んー?コレ」
「うん?……わ、懐かしい。っていうかこんなの取っておいたの?」
「こんなのって言わなーい」



部屋の片付けをしていた彼女が楽しそうに笑う声が聞こえて、手元を覗き見れば、かつてやり取りをした手紙……というには申し訳ないレベルのメモの束。
自分も彼女からのメッセージカードは保管してあるが、自分が書いたものを見るのは何となく恥ずかしい。



「メールすら面倒がって電話かけてくるサクラからの貴重なお手紙だもん」
「そんなに大事に取っておかれるって分かってたらもう少しマシな紙に書けば良かったな…」



彼女の手にあるのは付箋やノートを1枚切り取ったもの、更にはコピー用紙まである。
もう少し書く物を考えて書け、と過去の自分に言いたくなる。
いたたまれなくなりそっと離れるが、桜月はニコニコしながら1枚ずつ読み返し続けている。
そんなに楽しいものだろうか。
そもそも自分はそんなに気の効いたことを書いていたのだろうか。



「…桜月?」
「んー?」
「こっち、おいで?」
「…どうしたの?」



僕が呼べば不思議そうに隣に座り、こちらを見上げてくる桜月。
そっと肩を引き寄せれば、一瞬驚いて体を寄せてくる。



「明日は久しぶりに鮭、おかかチーズの混ぜ込み、わかめの混ぜ込み、そぼろのおにぎりがいいなぁ」
「…よく覚えてるね」
「そりゃ一番最初のは思い出深いから」
「……今思えば凄い組み合わせよね」
「美味しかったよ?」
「今ならもう少しサクラの好みに合わせられるんだけど…」
「例えば?」
「梅干し?」
「……わざと言ってる?」



冗談だよー、と肩を揺らして笑う彼女。
上を向かせてその唇を塞ぐように口付ける。
そっと離れれば、不安げな色がその瞳に宿っている。



「…怒った?」
「何で怒る必要があるの?」
「いや、何となく…?」



実際怒りの感情なんて欠片もないが、彼女がそう捉えたならまぁそれでもいい。
不安げな彼女をそのままソファに優しく横たえた。
そして、彼女が手にしたままだったメモの束を手から外して床に放り投げた。
あ、と言う声が彼女から漏れるが構うことはない。



「サクラ…?」
「まぁ別に怒ってないんだけどね」
「うん…?」
「手紙見ながら楽しそうなのはちょっと寂しいかなって」
「…サクラが書いた手紙だよ?」
「うん、それでも」



一緒にいる時は今の僕を見て欲しいな、なんて言って額に、頬に、唇に、口付けを落とせばくすぐったそうに身動ぐ桜月。
拒否する様子はない。



「もう、まだ片付け途中なのに」
「手紙読んで、手が止まってたように見えたけど?」
「そ、れは…否定しない、けど…」
「じゃあ、いいよね」



噛み付くような、キス。
全く、何がいいよね、なのか。
良くはないが、こうなったサクラを止められる気もしない。
久しぶりに会えて、自分もまた彼を求めているのは紛れもない事実。
それならば、とそっと彼の首に腕を回せば、その笑みが深くなったのは気のせいではないはず。


*美味しい時間*
(あと、僕アレも好き)
(ん、何の話…?)
(おにぎりの話、昆布も美味しいよね)
(……ねぇ、このタイミングでそれを言う?)
(アハッ、まぁ何にしろ桜月が作った物なら何でも好きだよって話)


fin...


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