コウノドリ

□この手を繋いだままで
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「……やっぱり寝てた」



サクラの部屋を訪れれば、予想通りというか何というか。
おそらくは帰ってきた時のままの姿でベッドに突っ伏している彼の姿。
規則正しく背中が上下している。
ここまで気持ちよさそうに眠っていると起こすのも可哀想になってくる。
自分が来たことにも気づかないところを見ると昨日は忙しかったのかもしれない。
満月や新月の日は何故かお産が多くなると言っていたが、昨夜は確か満月だったはず。
下手すると昨日は仮眠を取る暇などなかったのかもしれない。

だから無理しなくていいと言ってるのに、と小さな溜め息を吐いて眠り続けるサクラにそっとタオルケットをかければ、彼が眉を寄せる。
しまった、起こしたか。
恐る恐る顔を見れば、また寝息が聞こえ始めた。

やっぱりギリギリまで寝かせてあげよう。
彼が色々と考えてくれたことだけで今は十分だ。
スマホをマナーモードにして、寝室を後にした。


































「ん………えっ?!」



目を覚ますと室内は薄暗くなっていた。
慌てて時計を見ればもうすぐ17時を指そうとしていた。
帰宅して仮眠してから彼女と出かける予定だったのに。



「……ん?」



飛び起きた拍子に体にかかっていたタオルケットが滑り落ちた。
帰宅して何も考えられずにベッドに倒れ込んだはずだが………。
いや、今はそんなことより彼女に連絡しなければ。
スマホを開けば13:45に駅のカフェにいる、とメールが届いて以来、音沙汰がない。
慌てて電話をかければ隣のリビングから着信音が聞こえる。



「桜月!!」
「あ、おはよ。もうそろそろ起こそうかと思ってたところだったよ」
「ごめん、僕…約束してたのに」
「ん、大丈夫。当直だったんだから仕方ないよ。
ご飯は間に合うだろうし、着替えて出かけよう?」
「ごめん………」
「だからさ、本当に大丈夫だってば」



何てことないように彼女は言うけれど、いつもその優しさに甘えて。
『大丈夫』という言葉が胸に刺さる。



「ごめん……」
「サクラ、私が謝ってほしいのは寝過ごしたことじゃない」
「…え?」



ソファに座っていた彼女が、深い溜め息を吐いた後でゆっくりと僕の前にやって来た。



「私、言ったよね?夕方の待ち合わせでいいって」
「うん……」
「約束よりもサクラの身体を大事にしてほしいよ、私は。
フラフラの身体で出かけるよりもしっかり休んで一緒に食事してくれた方がいい」
「…ごめん」
「寝てスッキリした?身体辛くない?」
「ん…大丈夫」
「じゃあご飯行こう?まだ間に合うでしょ?」



にこり、と笑う彼女からは怒りの感情は全く感じられない。
10歳も年下だというのに彼女に頭が上がらないのは彼女の母性の強さがなせる業なのか。
僕に彼女は勿体無い、と同僚達と彼女と一緒に食事をした時に言われたが本当にそう思う。
けれども彼女と釣り合う人がいたとしても彼女を手放すことなんて出来やしない。


*この手を繋いだままで*
(美味しい!)
(良かった、喜んでもらえて)
(…これ、何が入ってるんだろ……)
(桜月?)
(家で作れないかな…)
(また、食べにくればいいじゃない)
(作れそうなら作ってみたいじゃない)
(その発想はなかなかないよ……)


fin...


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