コウノドリ

□満足度
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「……なんてことがありまして」
「皆、興味ありすぎだな…」



仕事が終わってから彼女の部屋を訪れて、夕飯を一緒に食べた後でソファに並んで食後のコーヒーを飲んでいたら、そういえばと昼休みの会話を苦笑混じりに話し始めた。
屋上に行くと聞いていたが下屋と一緒だったのか。



「まぁ……分かる気はします」
「うん?」
「これまで浮いた話がほとんどなかった鴻鳥先生ですから、皆興味もちますよ」
「ほとんどというか全然、ね」
「それに関してはノーコメントです」



ふふっと笑う彼女の背中は仕事中と同じくピンと伸びている。
彼女の部屋だというのに僕の方がソファの背もたれに背中を預けて座っていて寛いでしまっている。
何となく隣のスペースが空いているのが寂しくて、名前を呼んでトントンと背もたれを叩けば、



「結構くっつきたがりですよね、サクラさんって」



と笑いながら背もたれに凭れかかる。
10歳近く下だというのに最近は彼女の方が余裕があるように見えてならない。
寧ろ年の差があるが故に彼女に悪い虫がつくのではないかと心配ばかりしてしまう。



「僕も分かる気がするよ」
「え?」
「恋愛に興味なさそうな高宮に彼氏ができた、なんて聞いたら皆知りたがるでしょ」
「そう、ですか…?」
「そうなんですよ」
「別に、興味がなかったという訳でもないんですが……」
「そうなの?」



それは初耳だ。
彼女の言動からは正直なところ恋愛慣れも男慣れもしている雰囲気はなかった。
それは彼女の性格故かそれとも経験値の少なさかと思っていたけれど。



「……サクラさん、怒りません?」
「何が?」
「…前に付き合ってた男の人の話とか」
「うーん…別に今は僕のところにいる訳だし怒るってのはないかな」
「本当に?」
「…内容による」



じゃあ止めようかな、と言われると逆に気になるもので。
ここは年上らしく余裕をもっている雰囲気を見せたいところだったが、やはり他の誰かが彼女に触れたと考えると気分のいいものでもない。



「いや、聞くよ。聞かせてもらう」
「と言っても、大したことないんですけどね。
昔から勉強ばかりで付き合ってほしいと言われて付き合い始めても、行くのは図書館か本屋か長居できるカフェで」
「うん?」
「それで大体つまらない、と言われてお別れする、って感じでした。
あの頃はとにかく勉強して医者になって家を出ることしか考えていなかったので……だから、どこかにお出かけしたりこうしてお互いの家を行き来したりするのは、サクラさんが初めてですね」



そう考えると彼氏らしい彼氏ってサクラさんが初めてかもしれませんね、と何てことないように笑う桜月。
何だろう、僕を喜ばせるのが上手すぎるんだよな。
彼女にとっては大したことがなくても、僕にしてみればじわじわと抉られる、ボディーブローのように効果がある。



「桜月、ちょっとカップ置いて」
「え?あ、はい…?」



背もたれから起き上がった僕につられるように身体を起こして彼女もローテーブルにカップを置く。
カップが置かれたことを確認したうえで、ぎゅっと抱き締めた。



「サ、クラさん…?」
「僕はちゃんと満足させられてる?」
「……?」
「休みはなかなかぶらないし、オンコールがあれば一緒にいてもすぐ病院に戻るし」
「いや…それは私も同じですし」
「遠出もできないし」
「別に遠出したいって言ってませんし」
「流行りの店とか全然知らないし」
「私も知らないですし……サクラさん、これって不毛じゃないですか?」



アハハッと珍しく声を上げて笑う桜月。
腕の中で身動いで密着していた身体が少し離れる。
至近距離で見つめられるといい年して何だか照れ臭い。



「私は今くらいが丁度いいですよ?
ベタベタし過ぎるのも苦手ですし、それに…」
「それに?」
「一番大事にしていることがきっと同じだから。
そこの価値観が一緒って重要だと思いません?」
「……うん、そうだね」



彼女も僕も、生まれてくる生命に「おめでとう」と言ってあげたい。
それが何よりも大切で。
その為ならどんな労力も厭わない。



「とりあえず、今日のところは」
「はい…?」
「二人共、オンコールも外れてるし」
「そう、ですね…?」
「もう少しイチャイチャしたいなって思うんだけど、どうかな」
「……ふふっ、賛成です」



今日の彼女は機嫌が良いらしい。
普段の五割増しで笑っている気がする。
それが何だか可愛くて、離れていた距離をゼロにする。



「もう一回、キスしても大丈夫?」
「もしかしてさっきの気にしてます?」
「桜月のベタベタし過ぎってラインはどこかな、と思って」
「内容ではなくて頻度とか場所とか…そういう総合的なことであって、今までサクラさんがベタベタし過ぎと思ったことはないですよ?」
「本当に…僕を喜ばせるのが上手いよね」
「そういうつもりは、っ…」



反論しようと開きかけた口をもう一度キスを落として塞ぐ。
何回しても慣れなくて頬を赤く染める彼女が可愛くて愛おしくて。
きっともう手放すことなんてできないなと頭の片隅で考えながら噛み付くようにキスをした。


*満足度*
(こういうのは?)
(っん……いちいち、聞かないでっ…ください……)
(ちゃんと満足させられてるか心配なんだよ)
(聞かなくても、分かるでしょうっ…)
(んー…僕、女心が分かんないから自信ないなぁ)
(うそ、つきっ……!)

fin...


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