コウノドリ

□オーバーワーク
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「……桜月?寝ちゃったか…」



ベッドの上でようやく寝息を立て始めた桜月。
今日一日、気が気でなかった。
眠りに落ちる直前に何故、いつ分かったのかと聞かれたが、朝に自分が出勤した時から違和感には気づいていた。

コーヒーはブラック派の彼女が朝淹れていたコーヒーにはミルクが入っていた。
人間疲れていると無意識に甘い物を欲するというが彼女もまた自分でも気づかないうちに普段使わないミルクを入れたのだろう。
昨夜は忙しかった、と当直の引き継ぎをしていった四宮が言っていたくらいだから彼女にとっても体力的に厳しかったのだろう。
彼女の名前が書かれた栄養ドリンクがゴミ箱に捨てられていたのも見かけた。

自分から言って来るのを待つつもりだったが、一緒に外来に入っていた真弓ちゃんは何も言っていなかったし、患者さん達の反応を見ても普段通りの様子だったらしい。
昼休みに姿が見えないから探してみれば当直室で声をかけるのも忍びないくらいに熟睡。
きっと彼女のことだから時間になれば起きて来るだろうと思ってそのまま医局に戻った。

予想通り、回診が始まる5分前に医局に顔を出してカルテを確認してからまたすぐに病棟に出て行った。
少し眠ってすっきりしたようで安心したのを覚えている。

午後の外来の後、医局にもナースステーションにも戻らないので真弓ちゃんに聞いてみればカルテの整理をしたいと診察室に残っているという。
いつもなら医局でしている仕事のはず。
心配になって様子を見に行けば、顔色が悪く焦点の合っていない瞳で見上げられた。
無理に作った笑顔が痛々しくて、もうこれ以上は放っておけなかった。

もう少し言い方があるだろう、と思いながらも何も言わない彼女に少し腹を立てていた。
無理やり仕事を切り上げさせて帰宅して今に至る。



「本当に……もっと頼ってよ…」



彼女の同期の下屋とは違った意味で抱え込み過ぎる質。
それを表に出さずに一人で熟そうとするから、たまにオーバーワークになってしまうのだ。
その辺りをもう少し自覚してほしいもので。
若さ故の暴走と言ってしまえばそれまでだけれども、自分で上手くセーブして仕事ができるようになるのはもう少し先か。
それまでにこちらが我慢の限界を迎えそうな気がする。



「仕方ないな…」



きっと朝から、下手すれば昨日からコーヒー以外口にしていないのだろう。
起きたら何かしら胃に入れないと更に体調不良が悪化しそうだ。
非常食として買ってあった真空パックのご飯の賞味期限はまだ大丈夫だったはず。
彼女と付き合い始めてから少しずつ調理器具が増えてきているので雑炊でも作ろうか。
いつも作ってもらうことが多いから、たまにはそれも悪くない、と思いながらそっと寝室を後にした。


*オーバーワーク*
(あぁ、起きた?)
(…………サクラさん、今何時…ですか……)
(22時過ぎたくらいかな、体調はどう?)
(さっきより、だいぶ楽になりました)
(それは良かった。少し食べられそう?)
(サクラさんが、作ってくれたんですか?)
(桜月が作るより美味しくはないけど何も食べてないでしょ)
(ありがとうございます……)


fin...


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