コウノドリ

□それは初めての感触
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「サクラさん、寝なくて大丈夫ですか…?」
「うん、平気」
「私に構わず寝てくださいね?」
「その時は一緒にベッド連れて行くから」
「えぇー……」



玄関で抱き合うよりも、ゆっくり腰を据えたいと思ったのは僕だけではなかったようで、リビングへの移動を提案すればすぐに了解の返事が帰ってくる。
ソファに座り、桜月を後ろから抱き締める。



「一週間って長いね」
「そう、ですね……思っていたより長かったです」
「しかも、いると思ってたら昨日もいないし」
「それは…すみません、どうしてもと頼まれてしまって。
今橋先生と四宮先生に相談したら、サクラが戻るから問題ないって」
「四宮のせいか……」
「あ、でも私も行きたいって言ったんです。
お手伝いだけど研修みたいなものでしたし、個人病院ならではの大変さとか患者さんとの密接した関係とか勉強になったので」



そこで四宮のフォローをする辺り、何とも言えない気持ちになるけれど、彼女に他意がないことは十分承知のうえだ。
それでも何となく複雑な思いはある。



「まぁ、でもあれかな」
「……何ですか?」
「今日部屋に来てもらって良かったかも。
病院で顔合わせてもこうしてイチャイチャできないから逆にストレス溜まりそうだし」
「……そうですね、こんなに顔見なかったの初めてですしね」



何言ってるんですか、と返されるかと思っていたら肯定されるとは。
意外と彼女も寂しいと思っていてくれたのかもしれない。
今なら普段やってくれないこともやってくれそうな気がする。



「桜月?」
「はい」
「やっぱりちょっと眠いかも」
「寝ますか?私、オンコールなので起きてますけど」
「うん、だからちょっとこっちに凭れて」
「……?」



何を突然、と言いたげな顔をしながらも言われるままにソファの背もたれに背中を預ける桜月。
誰かが彼女を猫のようだ、と言っていた覚えがあるけれど、僕からすれば犬にも見える。
猫のように掴みどころがないかと思えば、犬のように従順で、



「……だからクセになる」

「え、?」
「ちょっと寝かせて。辛くなったら起こしていいから」
「っ、サクラさんっ…!」



一度やってみたかった。
なかなかその機会がなくて、お願いできなかったけど。
ちょっと強引なのは分かってはいるが、ソファに寝転んで彼女の太腿に頭を乗せる。

所謂、ひざ枕というもの。

残念なのは彼女がワンピースを着ていて、スカート越しにしかその柔らかな太腿の感触が味わえないこと。
決して変な意味ではない。
これはこれで心地良い。



「ベッドの方が、ゆっくり寝られるんじゃ、ないですかっ…」
「んー…今、一緒にベッドに入ったらオンコールがあっても、桜月のこと離してやれないし桜月が動けなくなるけど。
それでもいいなら、ベッド行く?」
「……このままどうぞお休みください」



言葉の意味を察したようで、観念したように溜め息を吐いてバッグを手繰り寄せ、中から論文を取り出した。
全く勉強熱心な子だ。
パラパラとレジメを捲った後、手を止めて黙々と読み始めた。

穏やかな静寂。
疲れと彼女の温もりで心地良くなり、目を閉じればそっと頭に何かを乗せられた感覚。



「ん……?」
「あ、すみません。気にしないでください。
こうしたくなっただけなので」
「うん…ありがとう……」



どうやら頭を撫でられているようで、何とも恥ずかしいがどうにも心地良い。
ここしばらく張り詰めていたものが解れていく、そんな気がする。

彼女の手と太腿の温もりを感じながら今度こそ微睡みに意識を委ねた。


*それは初めての感触*
(んー……)
(あ、おはようございます。ぐっすりでしたね)
(おはよう……どのくらい寝てた、?)
(2時間くらいですかね)
(そんなに?ごめん、大丈夫?)
(大丈夫ですよ、ちょうど読み終わったところですし)
(うん……若いって素晴らしいね)
(はい?)

fin...


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