コウノドリ

□煌めく世界と貴方
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「う、わ……」



屋上に出てみれば予想以上に大きく花火が打ち上がる様子が見て取れた。
あぁ、サクラさんはこのことを知っていて屋上に上がるように言ってくれたのか。
お礼をしなければ、とスマホを取り出せば急に視界が暗くなる。
何か温かな物で目を覆われたのが分かる。
反射的に払いのけようとすると聞き慣れた優しい声が降ってきた。



「っ…!?」
「だーれだ?」
「……サクラ、さん?」
「正解〜」



視界を遮っていたのはサクラさんの手。
何でここにとか、皆はどうしたんですかとか聞きたいことはたくさんあるけれど、振り返って見上げた時の笑顔に毒気を抜かれてしまった。
ほら、と指差された方には夜空に咲く大輪の花。
暫しの間、肩に手を置かれたままの状態で見入ってしまっていた。


































幕間、という表現は適切ではないが、次の花火の準備なのだろうか。
少しの静寂が訪れる。



「あの……サクラさん?」
「うん?」
「どうして、ここに……?」



先程から気になっていた。
皆と出かけていったはずの彼が、どうして今ここにこうしているのだろうか。
同期や先輩達が一緒ならば理由も分かるが見える限りで屋上に人の姿は確認できない。
彼一人がここにいる理由。



「お祭り行ったんだけど、ペルソナの近くで普通に病院の建物が見えたからさ。
もしかして病院の屋上からも花火が見えるかと思って」
「加江達は……?」
「皆、お祭り会場にいるよ。はぐれたことにして戻って来ちゃった」



ことも無げに話すが、本当に良いのだろうか。
そんな私の心の内を察したようで、頭上でふっと笑みを零したサクラさんが私の肩に置いた手をゆっくりと滑らせて後ろから抱き締めてきた。
いくら人の姿がないとは言え、ここは病院。
我々の職場なのだ。



「サ、クラ、さんっ…!」
「だって…ねぇ?」
「何…ですか」
「付き合って初めての打ち上げ花火くらい、一緒に見たいよ」
「………すみません」
「何で謝るの?」



後ろでサクラさんが苦笑するのが分かった。
きっと彼には私のやせ我慢なんてお見通しなのだ。
素直になれない、可愛くない自分が時々嫌になる。



「真面目な高宮のことだから、誰かに代わってもらってまで行きたいなんて言わないと思ってたけど、帰る間際にあんな顔されたら気になって仕方ないよ」
「あんな顔って……」
「あ、自覚なかった?『行かないで』って顔に書いてあったよ」
「っ?!」



驚いて振り返りながらサクラさんを見上げればクスクスと笑いながら見つめ返された。
実際そんな顔はしていないと思いたい。
ポーカーフェイスが上手い、と四宮先生に褒められたこともあるというのに。
どうしてこうも見抜かれてしまうのか。

生温い夏の夜風が頬を撫でる。
サクラさんの髪もふわりと揺れた。

あ、キスされる。
そう思った時には視界いっぱいにサクラさんの穏やかな顔が広がって、慌てて目を閉じた。



「病院なのに、って怒る?」
「……戻って来てくれて、嬉しかったので、今日は…何も言いません」
「それは良かった」



唇が離れて、今度は額に額を合わせられた。
至近距離で覗き込まれて何とも恥ずかしくなる。
目が泳ぐのが止められない。

きっとそんな私の心情すらも読み取っているであろうサクラさんがまた一つ、笑みを零した。



「僕ら、忙しい仕事だけどさ」
「…はい」
「こういう、ちょっとしたイベントも大事にしていこうよ。
何でも1つ1つ、一緒に…ね?」
「はい、よろしくお願いします…」



真面目だなぁ、と笑ってまたキス一つ。
その瞬間に再び大輪の雫が空に上がった。


*煌めく世界と貴方*
(そろそろ仕事に返さないと怒られちゃうかな)
(そうですね、流石に…)
(返したくないなぁ〜)
(サクラさん、)
(冗談だよ、頑張って)
(……もう1分だけ、抱き締めて欲しい、です)
(1分でいいの?)
(それは意地悪……)
(ごめん、続きは家でね)


fin...


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