コウノドリ

□元気の源
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「お待たせしました。
和牛三点盛、特選タン塩、ヒレスライス、野菜ときのこ盛、海藻サラダ、テールスープです」
「はーい、ありがとうございます」
「……………頼み過ぎじゃないですか?」
「そうでもないよ?何から焼く?」
「……タン塩からで」



肉が運ばれてきて諦めもついたのか、深い溜め息を吐いた後でトングを手に網の上に肉を乗せ始める桜月。
僕が焼くつもりでいたけれど、それは制されてしまった。
ここまでの主導権は僕が握っていたので、せめてものお返しだろうか。



「焼けました」
「うん、ありがとう。ほら、桜月も食べて」
「…うぅ、はい……」



きっと一枚いくら、とか考えているんだろうな。
彼女は箸で掴んだタン塩を渋い顔で見つめた後、ひと思いに口に入れる。
ゆっくりと咀嚼してから、ゆっくりと飲み込む。



「っ、……!」
「美味しい?」
「……、とっても、美味しいです…」



うん、いい顔。
さすが下屋。いい店を知ってる。
少し表情も解れて、先程までの緊張も少し落ち着いたようだ。
彼女がオンコールでなければお酒も入れたいところだけれども、そういう訳にもいかない。
仕方がないけど今日のところは美味しいお肉でお腹と心を満たしてもらおう。




























「うーん、美味しかったね」
「しばらく焼肉はいいですね…」



表情の暗かった彼女も最後のデザートが運ばれてくる頃には、いつも僕の前で見せる穏やかなものに変わっていて。
連れて来た甲斐があった、と思ったらまた困ったように眉尻を下げて僕を見上げてきた。
まだ何だか納得していないのだろうか。



「……いつも、すみません」
「うん?」
「今日だって結局ご馳走になってしまって…」
「うーん、まぁ先輩だし、それを抜きにしても桜月に財布出させるつもりはないかなー」




手を繋いで、ゆっくりと帰路につく。
頬を撫でる風が火照った身体の温度を少しずつ下げてくれる感じが心地良い。

奢られる、というより全てを相手に委ねるということに慣れていないのだろう。
いつでもそうだ。
口にすればきっと怒るだろうけど、申し訳なさそうに謝ってくる彼女が可愛いとすら思ってしまう。



「じゃあさ、」
「……?」



名案、というほどではないが彼女がこれから遠慮なく食事で僕に奢らせてくれる為に思いついた案を口にする。
これで彼女が納得してくれるかは別としても。



「桜月が……これから先、後輩が増えたとして。
その後輩がもし桜月みたいに悩んだり落ち込んでたりしたら、その時は桜月が美味しい物ご馳走してあげてよ。
僕はそれで充分だから」
「でも、それだとサクラさんには何もお返しができません」
「僕らは……まぁ僕は、だけどね。
赤ちゃんが無事に生まれてくることも嬉しいけど高宮や下屋、白川先生達が成長した姿を見るのも嬉しいんだよ?」



だから今は思う存分甘えてください、と顔を覗き込みながら言えば、渋々といった体で返事をする桜月。
そう、彼女達の成長は純粋に嬉しい。
もしその手助けができるのなら焼肉くらい、いつでもご馳走しよう。


*元気の源*
(…じゃあ、吾郎くんが落ち込んでたらご飯誘います)
(あ、それはダメ。吾郎くん連れて行くなら僕も行く)
(えぇー…すごい矛盾してますよ?)
(後輩と言っても男と二人でご飯はダメ)
(……サクラさん、行かせる気ないです?)
(だから僕も行くって)
(もう…!)


fin...


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