コウノドリ

□伝えたい気持ちは
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お弁当を2つ持って屋上に上がれば、ちょうど人気は少なくて並んで同じお弁当を食べていてもきっと誰かの目に止まる可能性は低いだろう。
……小松さんのおかげで、この病院のスタッフのほとんどはサクラさんと私の関係を知ってはいるけれど、極力話題に上がるような行動は控えたい。
まぁ、屋上に二人で出てきている時点で何も反論はできないのだけれども。



「大したものは入っていないんですが……」
「うん、それでも嬉しい」



予防線を張る訳ではないが、本当に大したものは入っていない。
彩りは多少気にしたけれど、主食が茶色いという時点で見た目が地味になるのはどうしようもない。



「わ、焼きそばだ」
「サクラさん、お好きですし普通のご飯よりいいかなと思って……」
「カップ焼きそば以外の焼きそば食べるのってお祭りの時以来かも。いただきまーす」
「召し上がれ」



ニコニコしながら手を合わせて箸を手に取るサクラさん。
あぁ、何かその笑顔でお腹いっぱい。
こんなに喜んでくれるならもっと早く作ってくれば良かった。



「んー、美味しい」
「本当ですか?」
「うん、本当。卵焼きも相変わらず美味しい」
「良かった……」



焼きそばは肉と野菜を切って炒めて、市販の麺と粉末ソースを混ぜただけだから失敗のしようもないのだけれども。
重ねて言うけれど、家族……しかも私が作った物なら何でもいいという、私に甘過ぎる兄以外の誰かにお弁当を作るのは初めてで、料理下手ではないけれど不安は不安だった。
それでも彼の私だけに見せてくれるその笑顔を見れば、嘘を言っているようには見えなくてそっと胸を撫で下ろした。



「そんなに心配しなくても、桜月は料理上手じゃない」
「そんなことないです、兄以外の男の人にお弁当作るの初めてで……結構ドキドキしてます」
「……へぇ?初めて?」
「え、えぇ……?」



意外そうに呟いたサクラさんがどこか嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。
ニコニコしながら箸を進める彼に聞くのも無粋かと思うし、そろそろ自分も食べないと時間がなくなってしまう。
よし、食べよう。



「いただきます」
「そういえば僕もお弁当作ってもらうの景子ママ以外だと初めてかも」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ」
「……そう、ですか」
「うん?」
「あ、いえ……」



そういえば前に四宮先生に彼の恋愛遍歴について話を聞いたことがあった。
付き合ったことのある女性はいるけれど、長続きしたことはなかった、と。
長続きしなかったとしてもどの程度の付き合いだったかまでは流石の四宮先生でも知らない、というか興味がないようだったのでそれ以上は聞けず終いだったけれど。

たまに彼が発する言葉の端々でそれが事実だったということが何となく分かる。
そしてそれが嬉しいと感じてしまうのはどうにも止められない。



「ん?」
「いえ、喜んでもらえて良かったです」
「寧ろお弁当作ってもらって喜ばないはずないでしょ」



当たり前のことのように話すサクラさんが愛おしくて。
ここが病院の屋上でなければ、彼か自分の部屋だったならば間違いなく抱きついていただろう。
本当に彼は私を喜ばせるのが上手だと思う。



「また、食べてもらえますか?」
「もちろん。いつでも大歓迎だよ」



でも無理は禁物ね、と笑って頭を撫でられる。
忙しない毎日で彼と一緒に食事をする、束の間の休息。
それが何よりの心の安息に繋がっているのは以前の自分からは考えられないことで、昔の自分に教えてあげたい。
こんなに大切で、愛しい人ができたことを。



「サクラさん、」
「うん?」
「……すきです」
「っ、ゲホゲホッ」
「大丈夫ですか……?」
「そういう不意打ち、止めて」
「あ、ごめんなさい」
「そうじゃなくて」



反射的に謝れば、再び箸を置いたサクラさんの手が頭に乗せられた。
疑問に思って首を傾げて彼を見上げようとすれば、乗せられた手によって遮られた。



「病院じゃなかったら間違いなくキスしてた」
「っ……!」
「今晩、覚悟しておいてよね」



可愛いこと言った責任取ってもらうから、なんて耳元で言われたら全身の血液が顔に集まる気がした。
けれど、こんなやり取りが幸せだなんて。
きっと私はサクラさんに溺れてる。


*全て小さな箱に詰め込んだ*
(鴻鳥先生、食堂来なかったけどお昼どうしたー?)
(すみません、ちょっと行く暇がなくて)
(ふーん?……あれ、桜月先生顔赤くない?大丈夫?)
(大丈夫です、ちょっと暑くて)
(……鴻鳥先生と何かあった?)
(えっ?!)
(……ふーん?今日、ぶーやんで事情聴取ね?)


fin...


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