S 最後の警官長編

□一話
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「花さん、こんばんは〜」
「あぁ、桜月ちゃん。いらっしゃい、何にする?」
「んー、どうしようかなぁ……ん?奥賑やかだね」
「今ね、一號とゆづるちゃんの同僚が合コンしてんのよー」
「………合コン、ですか」



賑やかなまんぷく食堂の中でも一際賑やかな一角。
目を向ければ幼馴染の神御蔵一號くんと棟方ゆづるちゃんの姿。
そして、その周りには見慣れない顔がたくさん。
合コンというか、何か女性陣が一人の男性を囲んでいるようにしか見えないんだけど。



「おー!桜月ー!」
「久しぶりー!」
「一號くんにゆづちゃん、久しぶり〜」
「桜月も一緒に飲もうぜ!」
「え、いやいや……合コンって言うなら遠慮しておきます」



現在、出会いは求めてないし、今日は仕事が忙しくて最近顔を出せなかったから落ち着いて久しぶりに食事をしに訪れただけ。
花さんの料理をゆっくりと食べられればそれで十分。
あわよくば幼馴染の二人と楽しくお喋りができれば良いと思っていたのに。
あれよあれよ言う間になぜか合コン席に連行された。
……苦手なんだけどなぁ、こういうの。



「俺とゆづるの幼馴染で高宮桜月です!」
「……よろしくお願いします」
「一號、テメェ……ゆづるさんの他にもこんな可愛い幼馴染がいるなんて……テメェには勿体ねーぞ!」
「あはは……」



この状況、笑うしかないな。
とりあえず美味しい料理とビールでお腹を満たすしか道はない。
そう、私は今日食事をしに来たのだ。
































「今日はありがとうございました〜!!」



ゆづちゃんの同僚の皆さんが口を揃えて、足早に帰宅……というか逃げて行った。
気持ちは分かる。
酔っ払った一號くんの同僚の皆さんは正直かなり面倒だった。



「じゃあ、一號くん私も帰るね」
「おう、気をつけてな」
「はいはーい」



この状況は早く帰るに限る。
と、思ったけれど思いの外、アルコールが回っていたようで目の前がくらくらする。
いや、でも帰らないと。



バッグの奥底でスマホが鳴った。
嫌な予感がする。
スマホを取り出して届いたメールを開けば、知らない番号からSMSが届いていた。
内容を見たくないのにスレッド一覧を表示すれば嫌でも数行が目に入ってしまう。



「っ…………」



酔っているからなのか、それとも届いたメールのせいなのか。

気持ちが、悪い。
呼吸が荒くなるのが、自分でも分かる。
心臓の音が身体全体に鳴り響く。
このままここにいたら、ダメ。
まんぷく食堂に戻ろう、申し訳ないけど一號くんに送ってもらおう。

来た道を戻ろうと踵を返した途端、何かとぶつかった。
背後に電柱なんてなかったから、おそらくは人物。
ぶつかった衝撃で手にしていたスマホを落としてしまった。



「ひっ………!」
「大丈夫ですか」
「っは……え、………」



どこかで聞き覚えのある声に恐る恐る顔を上げれば、先程まで同じテーブルについていた男性。
ゆっくりとした動作で落ちてしまったスマホを拾い上げて、私の手に戻してくれた。



「あ……、えっと、……蘇我、さん……?」
「驚かせてすみません」
「こちらこそ……変な声出して、すみません」



絞り出すようにして言葉を紡ぐ。
その間にも手の中のスマホがうるさいくらいに震え続けている。
蘇我さんの視線が訝しげにスマホに移る。
これだけ鳴り続けていれば誰しもが不審に思うのは当たり前のこと。



「あは……すみません、大丈夫です」
「………失礼ですが、メッセージの相手は」
「えっ……?」



また、スマホが震える。
反射的に手の中に視線を移せば、



『その男、だれ?』



端的だが、恐怖でしかない内容。
呼吸も、心臓までもが止まりそうだった。


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