S 最後の警官長編

□五話
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次に目を開けた時、部屋中が日差しに包まれていた。
辺りを見れば誰もいない。
今、何時?
スマホ、どこ?
身体を起こせば腕に巻かれた包帯が目に入る。
折れてないけどきっと傷がひどいんだろう。
無意識に頭を庇った記憶はある。

ベッドサイドの棚にスマホを見つけて手に取ってみれば時刻は13:34。
職場に休みの連絡入れてない、と思っていたけれど職場からの連絡は入っていない。



「目が覚めたか」
「蘇我さん?」
「昨日よりは大丈夫そうだな」
「あ、お陰様で……」
「怪我自体は大したことがないから退院は今日でも明日でもいいそうだ。
仕事はしばらく休んでいいと言伝を預かっている」
「え、」



まさか蘇我さんが連絡してくれた?と思っていれば、警察官として事件に巻き込まれた可能性があると連絡を入れた、と。
そういえば初めて会った時に名刺渡したんだった、と思い出した。
有り難いけれど出勤してからの仕事が怖いな、と変な方向に考えが及ぶ。



「あの、蘇我さん?」
「何だ」
「蘇我さんこそ、お仕事は……?」
「とりあえず有給だ。任務が入れば呼び出されるが」
「、え」



超がつくほど多忙なこの人が有給休暇って……いや、物凄く申し訳ないんですけど。
しかも私なんかの為に?



「私、今日……というか今すぐ退院します」
「……は、?」
「いや、蘇我さんがいるうちに退院した方が安心かな、って」
「……分かった、伝えてくる」
「すみません」



確かにあちこち痛いけれど、きっと運ばれてきて意識のないうちに色々な検査もされたのだろう。
その上で問題がないとされているならば長居する必要もない。

警察病院に運ばれていた、と知ったのは退院して病院の外に出てから。
色々根回しをしてくれた蘇我さんにはご飯を一度ご馳走したくらいでは足りないくらいのお礼が必要だろう。

































「………あ、れ?」
「どうした」
「いえ……家の鍵が、なくて」
「何?」



病院からタクシーでアパートに向かう。
部屋の前で鞄の中の鍵を入れているポケットを探るけれど、鍵が見当たらない。
階段を転げ落ちた衝撃で落ちてしまったか、と思って財布からスペアキーを取り出す。



「落としちゃったかな……」
「待て」
「え?」
「簡単に落ちるようなところに入れてあったか?」
「え……」



指摘されて気づいた。
確かに鞄はファスナータイプだし、鍵はその中でも更にファスナー付きのポケットの中に入れてあった。
蘇我さんの前で何度も出し入れしているし、彼が覚えていて当然。
派手に転がり落ちたとしても、そう簡単に落としてしまうだろうか。

私以上に緊迫感のある蘇我さんが私の手からスペアキーを取って鍵穴に差し込む。
険しい表情。
きっとこれは刑事の顔なんだろう。



「少し下がって待て。中を確認してくる」
「え、」
「……いや、入っても大丈夫か?中を確認するだけで余計なところは見ない」



私、さっきから『え?』しか言ってない。
でも、何だか出来事全てが日常からかけ離れていて頭が追いつかない。

何度も頷けば鍵を回して、静かに室内へと入っていく蘇我さん。
待て、と言われて素直に待てる性格でもないけれど、きっと付いて行ったところで足手まといになるのは明白。
ドアから離れて蘇我さんが出て来るのを待つ。

5分ほど経った頃、入って行った時のように静かに扉を開けて出て来た蘇我さんの元に駆け寄る。



「蘇我さん……?」
「………これから警察が入る」
「え?」
「部屋が荒らされている。おそらくだが、ヤツが侵入した」
「えっ?!」



信じられない言葉が蘇我さんの口から次々に出てくる。
憶測ではあるけれど、私を歩道橋から突き落とした後でバッグから鍵を盗っていき、部屋を荒らしていったはず、という蘇我さんの話。
ここ一週間ほど静かだったのは頃合いを見計らっていたのではないか、とも言われた。
少しだけ室内を覗けば引き出しという引き出しは開けられて、床は足の踏み場もないほどに物が散乱している。



「……また、引っ越しか……」



鍵は付け替えればいい話だけれども、こんな状態になった部屋を片付けてまた住めるほど神経は図太くない。
無意識に深い溜め息が漏れた。


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