コウノドリ長編

□最終話
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あの後…バーの店主、沖田さんにお礼を言って店を後にした。
また今度、二人で飲みに来ますと約束をして。

バーを出るとそっと手を取られて指先を絡められる。
あぁ、何か甘酸っぱい。
お付き合いするって、こういうことだったか。
彼氏なんて存在、しばらくいなかったからこの感覚が何だか気恥ずかしい。



「さて、と……とりあえず僕の部屋に行きましょうか」
「えっ」
「どこかで食事もいいんだけど、ちょっとゆっくり話したいなと思って。
このままBarronにいても良かったけど、沖田さんに聞かれるの照れ臭いし」
「まぁ……確かに」



聞けばサクラさんが研修医の頃を知っている人で、最近また交流が出てきたという。
昔を知る人の前で話をするのは恥ずかしい気持ちというのは分かる。
それに、と前置きして顔を覗き込んで来るサクラさん。
距離が近い。
……こんなに距離を詰めて来る人だっただろうか。



「せっかくだから、二人で話したいかな」
「っ、……サクラさん、近いっ…」
「うん?嫌?」
「そういう訳では……」
「アハハッ、桜月さん、顔真っ赤」
「サクラさんって、結構意地悪だったんですね…!」



知らなかった。
優しくて、穏やかで、そんな部分しか見て来なかった。
というかそういう面しか見せてもらえなかったのかもしれない。

……だからと言って嫌いになることはないんだけれど。



「うん、とりあえず帰ろうか。
桜月さん、僕の部屋来たことないし、せっかくだから遊びに来てほしいな」
「、はいっ……」
「まぁ僕の部屋、ほとんど物がなくて驚くかもしれないけど」



それから、サクラさんの部屋に行ってから、たくさんのことを話した。
その前に彼が言う通り、部屋には大きなピアノと必要最低限な生活用品しかなくて、ここでどうやって暮らしているのだろう、と驚きを隠せなかった。



「ちなみに僕が桜月さんを意識し始めたのは、あれかな」
「…どれです?」
「ほら、保育園の前で不審者扱いされそうになった時」
「え"っ…何であの時に……」
「初めて会った時とのギャップに驚いたというか、こんな風に笑う人なんだなーと思って」



出会ってすぐの頃の話をしたり、仕事の話をしたり。



「産婦人科もやっぱり女性多いんですね」
「うーん、産科医は男もいますけど、うちの病院の助産師は今は皆女性ですね」
「……道理で」
「うん?」
「…あの、昨日一緒に飲んだ時、」
「昨日、ですか?」
「………真弓ちゃん、って呼んでたから」
「あぁ……まぁ、仕事を円滑に進めるうえで女性に溶け込むのも必要ですしね」
「それは、分かります」



その大変さは目の当たりにしています…と、うちのクラスの若い男性保育士を思い浮かべた。
彼は少しサクラさんを見習って欲しい。
今はまだ新人と言うことで大目に見てもらっているところはあるが、あと3,4年もしたらそうも言っていられなくなる。



「今、悠樹先生のこと考えたでしょう」
「分かります…?」
「仲良さそうでしたもんね、昨日並んでぶーやんに入ってきた時は心臓止まるかと思いました」
「私には彼を指導する義務がありますから…!」
「ちょっと妬けるなぁ、日中はいつも一緒なんでしょ?」
「……悠樹先生、彼女いますよ?」
「えっ、そうなの?」
「学生の頃から付き合ってて、彼の方がベタ惚れみたいです。
休憩中、よく惚気話を聞かされるんです」



かなり意外だったようで、瞬きを繰り返すサクラさん。
確かにあの感じ、彼女がいるようには見えないからなぁ……。


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