MIU404

□おやすみ
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「え、ねぇ……馬鹿なの?」
「またまたぁ、そういうことばっかり言う〜」
「馬鹿、何度も言って来たけど正真正銘の大馬鹿」



飛ばされる先々で問題を起こしては始末書を何十枚と書いてきた、この目の前の伊吹藍という男。
今度は煽り運転されて頭に来たから、わざわざカーチェイスを仕掛けて危うく事故を起こしかけたという。



「挙げ句の果てに犯人に銃口向けてバディに殴られた、と」
「別にホントに向けてないんだけど、もう懲りたし」
「馬ッ鹿じゃない?懲りる云々の前にやるな、馬鹿」
「なぁ、もう馬鹿って何回言った?」
「何回言っても足りないわ、馬鹿!」



帰宅早々に詳細も話さずに殴られた〜、と口の端を指さされて仕方なく手当をする。
事件の被疑者と揉み合いになったのかと思って聞けば、聞いてもいないことまでペラペラと話し出し、その話を要約すれば単にこの男が相変わらずの馬鹿をやらかした、というだけだった。



「ほら、終わり」
「サーンキュ、やっぱり持つべきものは異動に付いてきてくれる彼女だよなぁ」
「うっさい、馬鹿」
「桜月〜」
「何よ、馬鹿。さっさと寝て」



話を聞けば聞くほど今度の部署は危険なところらしい。
警察官という仕事上、危険と常に隣り合わせなのは仕方がないこと。
それでも奥多摩にいた頃はまだ平和だったように感じる。
異動早々に車を廃車にしたとか、犯人と対峙して何ヶ所も打撲とか…少し前までは想像もできなかった世界。

元々野生の馬鹿な故に喧嘩っ早いところがあり、生傷が耐えない生活だったが、それとは訳が違う。
生命の危機すらもある。



「………あんまり心配させんな、馬鹿」



24時間の当番勤務にプラスして残務整理などで結局帰って来たのは日がとっくに沈んだ後だった。
ベッドに叩き付けるように寝かせれば、あっという間に寝息が聞こえ始めた。
全く手のかかる。



「……桜月?」
「っ……何、起きてたの」
「もう寝落ち寸前、一緒に寝よーぜ?」
「……馬鹿」
「今日の分はもう十分聞いたって」
「……藍」
「んー?」
「ぎゅってしてくれるなら一緒に寝る」
「もちのロン」



結局のところ、この男が無事に帰るのを待つしかない訳で。
抱き締められた温もりにようやく安堵を覚えて、微睡みに意識を手放すことにした。



*おやすみ*
(あー、落ち着くー)
(煩い……馬鹿藍)
(いや…だってもう何時間ぶり?)
(……38時間くらい)
(そりゃ桜月不足にもなるわ)
(分かったから寝て、私は眠い)
(えー、無理ー)
(じゃあ起きて。私は寝る)
(それも無理ーだって桜月が離してくれない〜)
(……馬鹿っ)


fin...


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