MIU404

□甘い甘い
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「はっくしょんっ!…あ"〜……」
「大丈夫、ですか…?」
「バカは風邪ひかないから大丈夫だろ」
「バカ代表だけど、風邪くらいひきますぅ〜」



犯人確保の際に貯水槽に落ちたという伊吹さんと志摩さん。
明け方、4機捜の分駐所に戻ってきた時には二人もびしょ濡れで。
夜がすっかり明けた頃には盛大なくしゃみを連発する伊吹さんがいた。
かたや志摩さんは涼しい顔で報告書を書いている。



「……ふふっ、」
「桜月ちゃん、今笑うとこあった?」
「あ…すみません、何だかお二人共すっかり仲良しだなと思って」
「仲良しじゃない。ただ、車内という密室空間で円滑な人間関係を保つ為に最低限の会話をしているだけ」



ひでぇ!と声を上げる伊吹さんの顔はちょっぴり赤みを帯びていて、もしかしたら少し熱が出ているのかもしれない。
暖かくした方がいいのかな、と仮眠用の毛布を取りに行く。



「……ふぅ、」



昨日から何も考えずにいると耳に残っている伊吹さんの、きっと本人にとっては何げない一言が頭の中で反芻してしまう。
いけない、今は仕事中。
雑念を頭から振り払って毛布を手似して戻れば、つい先程までソファに寝転がっていた伊吹さんの姿が消えていた。



「伊吹ならトイレ」
「、あ…」
「………気にしてんの?昨日のあのバカの発言」
「えっ…」
「バカだから何も考えてないんだよ。
それにライクの意味の『好き』って言ってたから気にすんな」
「別にっ…私は、そんな…」
「いや、分かりやす過ぎだから。たぶん気付いてないの本人と九重くらい」
「えぇー……」



友達からはよく考えていることが顔に出やすいとは言われるが、まさかこんなにも知られているとは…。



「それに……あれだ、伊吹はきゅるっとした子が好みだそうだ」
「………きゅるって、何ですか…?」
「俺もいまだによく分からん」
「…きゅる?」
「ん〜?きゅるっ、がどうしたって?」
「い、え…あ、伊吹さん、良かったら毛布使ってください。本当は帰ってお休みになるのが一番だと思いますけど……」



彼のデスクに残された報告書はまだそのほとんどが白いまま。
この分だとまだまだ帰れそうにないと予想。
ありがと、と毛布を受け取って頭までかぶってからデスクに向かう伊吹さん。
コーヒーを淹れようと思ってキッチンに向かうが、風邪をひいたかもしれない人にコーヒーはあまり良くないのではないか。

キッチンに向かいかけた足を自分のデスクに戻して、引き出しのおやつボックスからスティックタイプのココアを取り出した。
コーヒーよりは喉にも優しい気がするし、ココアの方が体も温まるのではないだろうか。

自分の仕事はデスクに書類の束が置かれているが、別に急ぎでもない。
桔梗隊長からは本来の事務仕事の他に、隊員達の様子に目を配ってやって欲しい、と配属の挨拶をした際に言われている。
あの時はよく分からなかったが、きっとこういう時のことを指していたのだろう。



「志摩さん、コーヒーどうぞ」
「ん、サンキュ」
「伊吹さんは…こちらでどうですか?」
「んん〜?お、あったかいココア〜!
やっぱり桜月ちゃん気が利くね〜そういうとこすげぇ好き」
「っ、別に、大したことじゃないですから…」



本当に、この人の発言は心臓に悪い。
良く言えば素直、悪く言えば何も考えていない。
もう顔を見ていられなくて、書類やら本やらが雑然と広げて置いてある伊吹さんのデスクの邪魔にならないところにカップを置いて自分のデスクに戻る。
顔が熱い。

背後からはまた軽快な会話が聞こえる。



「伊吹、セクハラするな」
「だって〜こんなことされたらキュンキュンするっしょ。ほら、俺だけココアだよ?」
「はいはい、良かったな。さっさと報告書まとめろ」
「志摩が冷たい〜」



本当に仲が良いように見える。
が、そんなことを言えばきっと志摩さんからは『仲が良いんじゃない』と反論されそうだけれども。
早く彼の報告書が終わることを願いながら、今日の私の仕事にようやく取り掛かり始めた。


*甘い甘い*
(終わった終わった〜!)
(お疲れ様です)
(桜月ちゃ〜ん、ココアごちそーさま)
(いえ、体調は如何ですか?)
(毛布とココアのお陰で完全復活〜!)
(バカだからその程度で治るんだな)
(違うって〜。分かってないな〜志摩ちゃん!
きゅるっとした子にこんなことされたら癒やされちゃうでしょ)
(出た、きゅるっ)


fin...


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