MIU404

□分かりやすい彼
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「たっだいま〜」
「おかえりー」



24時間勤務が終わり、珍しく午前中のうちに帰宅した藍。
いつもならば報告書が終わらないだとか何かと24時間以上帰って来ないことが多いのに。

いつ帰って来るのかやきもきするよりはマシか、と納得させて藍が脱ぎ捨てたジャケットをハンガーに掛ける。
24時間の勤務、密行と呼ばれる管内の巡回は心身共に相当削られるようでいつもなら自分でやっていることも手がつかないことが多い。
それもまた仕方のないこと、と言ってしまえば簡単ではあるが。



「もう…藍!ジャケットはハンガーに掛けてっていつも言ってるでしょ」
「ごめんごめん〜」
「……次はないからね」
「合点承知の助」
「全く……」



こういう時は合点していないことが大半。
ついでに言えば大体は疲れているか何かあった時。

普段はバカみたいにどうでもいいことを喋り倒すクセに、自分がしんどい時は何も言って来ない。
……訂正、バカみたい、ではなくてバカなんだった。
バカはバカらしくしてくれればいいのに、本当に面倒な性格だと思う。



「藍、ごはん食べる?」
「食べる〜今日は何じゃラホイ?」
「ぶりの照り焼きと切り干し大根のサラダ、さつまいものレモン煮、あとはごはんとお味噌汁」
「ん〜美味そう」
「お味噌汁温めるから座って待ってて」
「は〜い」



リズムを取り小刻みに揺れながらダイニングテーブルにつく藍。
見た目は何ら変わらない、いつもの軽口のお調子者。
けれど、それに騙されるほど薄く短い付き合いでもない。



「あーいちゃん?」
「んん〜?」



温めていた味噌汁の入った鍋の火を一度止めて、そっと近づいて後ろから抱き締めれば、わざとらしく驚いてみせる藍。
一瞬、目の奥に動揺が走ったことは見逃さない。



「えっ、何、どしたの。桜月からこんなことするなんて珍しいじゃん」
「それはこっちの台詞よ」



機嫌良く帰って来た日、……まぁ大体は機嫌が良いのだけれども。
その、機嫌良く帰って来た日は私が食事の準備をしていれば鬱陶しいくらいに周りであーだこーだと今日の出来事やバディの志摩さんの話を喋り倒す。
そしてどちらがついでなのか分からないがひたすらにスキンシップを図る。
抱きついてくる程度ならまだしも、これを他の誰かにやったらセクハラで訴えられるレベル。
……いくら野生のバカでも流石に他の人にそれはないと思うけれど、スキンシップがとにかく激しい。
お陰で食事の用意が進まなくて、最終的に座ってなさいとキッチンを追い出すことが殆ど。



「藍が一人でおとなしく座ってる時は何かあった時、でしょ?」
「…さっすが」
「仕事のことはよく分からないけど、さ?」
「ん?」
「こうして藍を慰めてあげるくらいはできるよ」
「……桜月、ちょっとこっち来て」
「うん?」



こっち、と指されたのはダイニングチェアに座る藍の膝。
優しくしてるからと言って若干調子に乗っている気がしなくもないが、今日のところは素直に言う通りにしてあげよう。
腕を解いてそっと藍の前に回れば、腰に腕を回されて抱き寄せられる。



「…お疲れ様」
「………ん」


膝に座らなくていいのか…それはそれで体重が気になるところなのでそれでいいけど、なんて思っていたら背中に腕を回されて力強く引き寄せられた。
咄嗟のことに反応できず、バランスを崩して藍の胸に倒れ込む形になってしまう。



「痛……ちょっと、藍」
「ごめん、」
「……よしよし」



私の肩口に顔を埋めて動かなくなる藍。
今回はかなりキツいらしい。
守秘義務もある、何があったのかは聞けないし聞かない。
ただ、彼の辛さを一緒に背負うことはできなくても、側にいることはできるから。

少しでもその心が軽くなるように、そっとその広い背中を抱き締めた。


*分かりやすい彼*
(何で桜月には分かっちゃうかな〜)
(それはまぁ…ねぇ……?)
(何だよ)
(……愛、でしょ?)
(それは…俺の名前?それともラブの方?)
(文脈から察してよ、バカ)


fin...


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