MIU404

□紹介
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普段、昼間に鳴ることのないメールの着信音が流れた。
何事かと思えば《黒地に水色の2本のラインの入った靴届けてくんない?》と端的に言えば使いっパシリを要請する内容。

どうせ今日は予定もない。
明日まで顔を合わせることがないと思っていた彼の顔が見れるなら、それも悪くない。
何処に持って行けばいいか聞けば家からそう遠くないコンビニを指定された。
いつ事件が起きて動き出すか分からない彼が長くその場にいられるとも限らない。
シューズボックスから指定された靴を取り出して、財布とスマホ、家と自転車の鍵を持って部屋を飛び出した。

自転車なら5分で着くだろう、その5分の間に事件が起きてしまったら会うことは叶わないかもしれないが。



「うーん……?」



着いたはいいが、姿が見えない。
駐車場にいるのはカーキのコートに天パなのかセットなのかは不明な髪型の男性が一人。
そういえば車種を聞いていないけれど、現時点でこのコンビニの駐車場に停めてある車はド派手なメロンパンの移動販売車だけ。
………まさか、ねぇ?

もう行ってしまったのか、それともコンビニの中にいるのか。
……とりあえず声をかけてみるか。



「あの……」
「えっ?あ、はい?」
「すみません、機捜隊の方ですか?」
「え、……そう、ですけど、貴女は……」



やっぱり合ってた。
機捜隊の人ならきっと奴のことを知っているはず………というか、この人の出で立ち……



「もしかしてシマさん、ですか?」
「はっ?何で俺の名前」
「良かった、合ってた。
あ、急にすみません。伊吹藍の……身内のような者なんですが忘れ物を届けるよう頼まれてまして」
「あぁ……そういうこと……びっくりした」
「驚かせちゃって、すみません」



バディの話はうっすらと聞いていた。
話を半分聞き流していたので覚えてて良かった、と胸を撫で下ろす。
本人不在なのは残念だが、靴を届けるというミッションはクリアできそうだ。



「これ、お願いしてもいいですか?」
「アイツ……いや、彼もすぐに来ますよ。コンビニのトイレ借りてるだけなので」
「あっれ〜、桜月早いじゃん」
「藍!」
「……藍?」



背後から声をかけられて振り返ればお目当ての人物が悠々とコンビニから出て来たところだった。
人に届け物させておいていないとはどういうことか、と詰め寄ろうとしたが今まで話していた人物の存在を思い出して、ぐっと堪える。



「これ、頼まれてた靴」
「サーンキュ」
「じゃあ、私帰るね」
「まぁまぁ待て待て。
志摩ちゃ〜ん、コイツ俺の彼女!」
「彼女……彼女?!」



あぁ、余計なことを。
敢えて身内と言葉を濁しておいたのに。
こうなったら仕方ない。この状況で名乗らずに立ち去るのは失礼に当たる。



「……高宮桜月、と申します。
いつも伊吹が大変……大ッ変お世話になっています。本当にいつもすみません」
「あぁ……えーと、志摩一未です。こちらこそお世話に…」
「いえ、本当に……話を聞く限り、伊吹がご迷惑をかけてる一方なので、本当に……」



バディの志摩さん、彼からよく聞く名前だ。
そしていつも迷惑をかけまくっているのは重々理解している(当の本人は自覚はないが)

頭の下げ合いをしていると駐車場に一台、車が入ってきた。
隣に停められて下りてきたのはナイスミドルなおじ様。



「どうした、何かあったか」
「陣馬さん、いえ、何かあったというか……」
「こちらのお嬢さんがどうかしたのか」
「陣馬さ〜ん、コイツ俺の彼女ッす」
「そうか、彼女か……彼女っ?!」



見事に同じ反応。
車内にいた若いお兄さんもこちらを見て驚いた表情をしている。
……本当にこの、伊吹藍という男は。

結局同じ挨拶をして、また頭を下げる。
皆さんの反応を見る限り、やはり自覚のないところで迷惑をかけているようだ。



「随分若く見えるけど、お嬢さんいくつ?」
「お嬢さんって年でもないですよ、今年26なので」
「26……?!」
「そ、8個下には見えないっしょ?」
「藍…それ、どういう意味?」
「落ち着いてるって意味♪」



駄目だ、これ以上不毛な会話はしていられない。
そろそろ退散しよう。きっとパトロールの続きもあるはず、と思っていたら無線が聞こえてきた。



「行くぞ」
「りょーかい……じゃあ行ってくる」
「ん、気をつけて」



ワシャワシャっと髪の毛を乱すように頭を撫でてから車に乗り込んで、すぐさま駐車場を出ていってしまう。
少しの寂しさを感じながらも何とも彼の仕事らしい、と小さく笑った。


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