MIU404

□言葉
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「たっだいま〜、桜月ー?」
「っ、うぅ……」
「桜月っ?!」



同居人が帰宅したことにも気づかずにドラマに没頭していて。
クライマックスのシーンで涙していたタイミングで割り込んで来られた。
いや、本当にタイミング考えて。



「ごめん、大丈夫だから黙って」
「何で、何で泣いてんの?ねぇ?!」
「あぁー……もう、分かった。
最初から一緒に見よう。そしたら分かるから」
「ん!」



間の悪さはピカイチだな、と溜め息が漏れる。
本当はリアルタイムで最後まで見てしまいたかったけれど、どのみち一度見ただけでは話を自分の中に落とし込むことはできないくらい内容の濃いドラマ。
まぁ一話完結だし、途中から見ても大丈夫だろう。



「『全力で走るのに必要』か、いいこと言うじゃん……」
「ね、バカなんだけど核心ついたこと言うんだよ、この人」
「俺みたいじゃ〜ん?」
「はいはい、そうね」



いちいち後ろに座るバカの相手はしていられない。

ようやくさっき見たところまで追いついた。
ここからは集中したい。
………できるかは分からないけれど。





















「はぁ………良かった、」
「んー、思ってたよりも面白かったな」
「………」
「桜月?どした?」
「藍は、さ…」
「んー?」



私を後ろから抱き締めるようにして座っていた藍が立ち上がって冷蔵庫からペットボトルを取り出した。
蓋を開けながらまた同じ場所へ戻ってくる。
前のめりになってテレビに齧り付くようにしていた背中を少し伸ばして、そのまま後ろへ、藍の胸へと倒れ込んだ。



「……危ない仕事だよね、機捜も」
「ん?まぁ、犯人の車に轢かれかけたり銃で撃たれそうになったり階段から落ちそうになったり?
それなりに生命はかけてはいるけどな〜」
「……撃たれそうになった話は聞いてない」
「ん。まぁ無傷だから無問題」



半ば仰向け状態から横向きに座り直して、藍の胸に耳を当てる。
規則正しい心音が届く。
心地良い感覚。



「藍、」
「うん?」



ペットボトル片手にサラサラと私の髪を弄んでいる。
藍の大きな手で頭を撫でられたり髪を梳かれたりするのが好き。
すごく落ち着く。



「お願いだから、私より長生きして。殉職とかヤだよ」
「大丈夫だって、俺の生命線は長いから」



ほら、と目の前に掌を広げられる。
確かに…生命線が手首まである。
……ゴキブリ並の生命力がありそうで何より。



「……すごい」
「ハハッ、くすぐったいって〜」



生命線を指でなぞれば、楽しそうに笑う彼。
この笑顔をいつまでも側で見ていたい、そんなことを思っていたら、掌に当てたままの指先を取られて手を掴まれる。



「そんな顔しなくたって長生きするし、ちゃーんと側にいるから」
「……何か、ムカつく」
「ひどくね?」



心の内を見透かされた気がして、また憎まれ口。
きっと分かっているであろう彼は笑いながらまた私の髪を梳き始めた。
普段はいつもおちゃらけていて、適当なことばかり言うクセに。
こういう時は全部分かってる、とばかりに欲しい言葉を投げつけてくる。

本当に、この伊吹藍という男は、



「藍、」
「んー?」
「すき」
「ッゲホゲホッ…ゲッホゲホッ、何、何何なに?突然どうした?!」
「……言いたかっただけ、もう言わない」
「もう一回!もう一回言ってよ〜」
「言わない」
「桜月〜」
「……一回で、いいの?」
「素直じゃねーなぁ」



ひょい、と言う効果音がピッタリなくらい軽く抱き上げられ、思わず胸元にしがみつく。
本当に、この男はいつもいつも…!



「じゃ、続きはベッドで」
「っ、バカ藍っ…」
「はいはい、バカですよ〜」



ニヤニヤしながら寝室へ向かう藍に抵抗する気力もなく。
抵抗したところで力で敵うはずもない。

せめて明日の朝、立ち上がることができるくらいには手加減して欲しい、と思いながら彼の胸に頭を預けた。


*言葉*
(ほらほら、早く言った方が楽になるぞ〜)
(っ、ヤ、だっ……)
(頑固ちゃんだなぁ)
(こんな、)
(ん?)
(こんな…私はっ……嫌い…?)
(んなワケねぇじゃん!すっげー好き!)
(ふふ…私も、藍がすき……)
(………あーもう、今夜寝かしてやんね)


fin...


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