MIU404

□会いたくてたまらない
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急に意識が浮上して目が覚めてしまった。
基本的に一度眠りにつくと朝まで目覚めることはないのだけれども。
ふと見れば隣にはいつ帰ってきたのか、寝息を立てている彼の姿。

時計を見遣れば夜中の3時。
起床時間にはまだまだ早い。
水を飲んでからもう一度寝直そう。
ベッドを揺らさないようにそっと抜け出して、キッチンへ向かえばその道すがら、脱ぎ捨てられた彼のジャケットやパーカーが目に入った。
何度言っても直らない、と無意識のうちに溜め息が漏れる。
脱ぎ捨てられた衣類を拾い上げてパーカーは洗濯カゴに入れ、ジャケットはハンガーにかけておく。
朝になったら言っておかないと、とは思うがどうせ『ごめんごめん』と軽く流されて終わることも想定内。

ダメだ、色々考えていたら眠れなくなる。
コップ一杯の水を喉に流し込んで足早に寝室に戻り、先程と同じ場所に横たわる。



「変な夢でも見た?」
「っ、びっくりした……ごめん、起こした?」
「んー…ベッド出て行った後で気づいた……」



寝てる時にいなくなるの寂しいじゃん?と抱き寄せられる。
半分眠っているからか、いつもより力の加減がない。
ほぼ頭を打ち付けるような形で彼の胸に顔を埋めれば、同じ柔軟剤の中から漂う彼の匂いにひどく安堵する自分がいる。



「で、変な夢見た?」
「ん…今日は大丈夫。喉乾いただけ」
「そっか、じゃあ寝よ。まだ余裕で二度寝できるからさ」
「うん……」



いつ帰って来たのかは分からないが、私がベッドに入ったのは日付が変わってから。
その前にてっぺん越えそうだから先に寝てて、と連絡が入っていて。
一応、待っていたけれど時計の針が1時を回っても姿を現さないので諦めてベッドに横になった。
その後で帰って来たのだとしたら今起こしてしまったのは悪い気がしてきた。



「藍………?」
「ん〜?」
「ごめんね、疲れてるのに」
「んー…気にすんなって〜……」



そうは言っても声色はかなり眠そうで。
下手すると寝入りばなだったのではないかと思うくらいだった。
いくら明日は明けの非番でいくら寝ても問題ないとしても、だ。

…いや、余計なことは考えずに黙って眠ろう。
それが彼の休息への一番の近道になる。





眠ろうと思えば思うほど
眠らなければと考えれば考えるほど
逆に頭が冴えてくるもので。

抱き締められて身動きが取れないままに目を開ければ規則正しい寝息を立てながら眠る藍の姿。
顔が見えないのが非常に残念。
少しなら、と彼の胸に押さえつけられていた頭を動かして体を離せば、穏やかな寝顔が暗がりの中で目に映った。

閉じられた一重瞼
スッと通った鼻筋
薄い唇
シャープなフェイスライン

起きているとイラッとすることも多いけれど、こうして眠っている時はいつまでも見ていられる。

性格に難アリとは思うけれど、見た目は相当カッコいい。
どうしてこんな人が私と付き合っているのだろう、と付き合い初めの頃はよく思ったものだ。



「……そんなに見つめられると、穴開きそうなんだけど〜…?」
「っ、ごめん……」



眠ったと思っていた彼の瞼と口が開く。
心臓が口から飛び出して来るんじゃないかと思うくらい驚いた。
しまった、仮にも刑事。
こんなに視線を浴びせていたのはマズかった。



「やっぱ、寝れない?」
「ごめん……」
「そんなに謝んなくていーよ。ほら、おいで」



肘を折って枕にしていた自分の腕を伸ばして、ぽんぽんと反対の手で叩いて私を誘う。
所謂、腕枕。

申し訳ない気持ちが強いが、どうにもこのお誘いには弱くて。
側に寄ってそーっと頭を乗せれば、至近距離で瞳を覗き込まれる。



「いらっしゃいませ〜」
「ごめんね」
「だから謝んなくていーって。俺こそ帰り遅くてごめんな〜」
「仕事だから……仕方ないよ。疲れてるのにごめん」



引けていた腰を抱き寄せられて密着状態になる。
細身の身体の何処にこうも容易く私一人を軽く抱き寄せる力があるのだろうか。
そこまで筋肉質な身体でないことは……まぁ、知っている。



「桜月?」
「、うん…?」
「大丈夫だから、そんな謝んないで」
「ごめん……あ、」



なかなか治んないな〜と苦笑する藍。
随分前から指摘されている、この謝り倒す癖。
もう無意識に出ているものだから、意識しないとすぐに口から零れてしまう。



「そういう時は?」
「……ありがとう」
「よく出来ました」



フッと薄く笑って、額に口付けられた。
そしてそのまま唇が顔中に降ってくる。
じわりじわりと身体が熱を持ち始めるのが分かる。
あぁ、すっかり飼い慣らされてしまったこの身体が恨めしい。



「眠れないなら、このままこうしてる?」
「……私が眠いって言ったら寝かせてくれる?」
「それは約束できないかもな〜?」



軽口を叩いている彼は、本当は間違いなく眠いはずなのに眠れない私に付き合ってくれている。
何だか申し訳ないやら藍の優しさが嬉しいやら、鼻の奥がツンとする。
こんなことで泣きそうになっていることを知られたくなくて広い胸板に顔を埋めれば、ぽんぽんと頭を撫でられる。



「ん〜?どうした?」
「藍ちゃん……」
「ん?」
「ぎゅってして」
「お安い御用」



隙間がなくなるくらいぎゅうぎゅうに抱き締められる。
きっと寂しかったのだ。
彼が仕事へ行けば24時間、下手すればそれ以上に姿を見ることも声を聞くこともできない。
ちょっと様子を伺いに行けばいつでも迎え入れてくれる、交番勤務の頃とは訳が違う。
いつでも手の届く場所にいないというのはこんなにも寂しいことだったのか、あの頃は恵まれていたんだな、と今更ながらひしひしと実感している。



「藍ちゃん…?」
「んー…?」
「もう、大丈夫……眠れそう…」
「ん…明日はいるから、な」



どこまで見抜かれているんだろう、そんなことを思いながら彼の温もりと抱き締められた心地良さにゆっくりと意識を微睡みに溶かした。


*会いたくてたまらない*
(ん……藍…おはよ…)
(んー、おはよ)
(藍、あの後寝られた…?)
(大丈夫だって〜桜月がいたからぐっすり〜)
(それなら良かった…)


fin..


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