MIU404

□言葉の代わりに
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「メロンメーロンまるごとメロン♪」
「止めろ、休みの日も頭から離れなくなる」
「いいじゃーん、また太郎でメロンパン頼もうぜー♪」



今日も愉快で機嫌の良い相棒はメロンパン号の曲に合わせてノリノリで歌っている。
変に中毒性のあるこの曲、休みの日にも不意に脳内でリピートされるから困り物だ。
赤信号で止まった今のタイミングで音を止めようと手を伸ばした時、



『警視庁から各局、墨田署管内で通り魔事件発生。負傷者複数。容疑者は凶器を持ったまま逃走。現場は横山一丁目交差点付近。
近い局、どうぞ』
「機捜404から警視庁、墨田二丁目から向かいます。どうぞ」
『警視庁、了解』



平日の昼下りに通り魔。
アンバランスさに眉を顰めるが、まずはいち早い現着が必須。
幸い現場は3ブロック先。
おそらく間違いなく一番近い場所にいる。



「通り魔か〜……重症者いないといいけど」
「それは行ってみないと分からないな」
「よし、志摩。急ごうぜ」









































現着すれば辺りは救急隊と警察関係者、そして野次馬で騒然としていた。
路上のあちこちに飛び散った血痕の真新しさが事件発生から間もないということを物語っている。



「機捜404、横山一丁目交差点に現着。これから初動捜査を始めます。どうぞ」
『警視庁、了解』



まずは目撃者への聞き込みと可能であれば被害者への聴取。
そうこうしているうちに401も現着。



「陣馬さん」
「おう、今そこで聞いたら重症者3名は既に病院に搬送、軽症者5名はそこの救急車の中でひとまず処置してから近くの病院に搬送するそうだ。
志摩と伊吹は軽症者から話が聞けそうなら聞いてくれ。
俺と九重は目撃者への聞き込み」
「分かりました」



重症者3名、軽症者5名。
決して小さい事件ではない。
軽症とは言え、急に事件に巻き込まれたのだ。
おそらく恐怖でまともに話は聞けないだろう。
それでも何かしらの手がかりを掴めればいいが。



「すいませーん、警察なんですがちょっとお話聞かせてもらえますか?」
「ごめんね〜、怪我大丈夫ですか〜?」
「あ……はい、大丈夫………え、?」
「……え?」



救急車の中を覗き込めば、二の腕の辺りから胸にかけて血で真っ赤に染まった白いシャツの袖を捲り上げて、救急隊員に消毒らしき処置をしてもらっている女性。
声をかけると想像していたよりも元気そうな声が返ってきた。
振り返ったその姿に救急車内の空気が凍る。

次の瞬間、隣にいた伊吹の纏う空気が変わったのが見なくても分かった。



「桜月っ!!」
「ちょ、藍っ……待って待って!」
「伊吹!待て待て待て!処置中だ!」
「桜月!桜月!!」
「藍、落ち着いて……痛っ」



救急隊員からひったくる様に彼女を引き寄せようとする伊吹。
間に割って入るがもう伊吹の目には彼女しか入っていない。
何故彼女が、とは思うが事件に巻き込まれたのは明白。
軽症とは言えシャツの1/3が血で赤く染まっているのを見て驚くなという方が無理な話。
しかもそれが自分の大切な人ならば尚更。
ただでさえ激情型の伊吹の感情が大きく揺さぶられるのも無理はない。

無理やりに引き寄せられたことで彼女の傷に障ったようで小さく悲鳴を上げた。
それで一瞬我に返った伊吹を力づくで引き離す。



「伊吹!落ち着け!彼女をよく見ろ!」
「桜月……!」
「本当に、大丈夫だから……ね?」



傷口を押さえていたのだろう。
赤く染まった手を伸ばして、伊吹の手を掴んだ彼女が困ったように笑みを浮かべた。
押さえていた伊吹の身体の緊張が解けていくのが分かる。
彼女が重症者でなくて本当に良かった、と心の底から思う。
もしそんなことになっていたら、犯人はきっとタコ殴り程度では済まなかっただろう。


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