MIU404

□未来予想
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食後、学校の宿題のプリントを終わらせて三人で近くの公園へ。
季節は残暑どころか初秋もとっくに過ぎたというのにまだまだ暑さが残っている。
それでも頬を撫でる風は確かに秋を感じさせて、その涼しさに思わず溜め息が零れた。

視線を途中で買ったサッカーボールを元気いっぱいに追いかける藍とゆたかくんに移せば、二人で楽しそうに笑っている。
初めは私も参戦していたけれど、日頃の運動不足も相まってすぐにバテてしまった。
思っていた以上に体力が落ちている気がする。
少し体を動かさないとダメかなぁ……なんて思いながら、まだまだ終わる気配のない二人のサッカーを眺めれば、ゆたかくんが躓いて転んでしまった。



「あっ、ゆたかくんっ!」
「ゆたか、大丈夫か?」
「大丈夫……僕泣かないよ!」
「おっ、偉いじゃ〜ん。
でもバイ菌入るとダメだから傷洗おうな〜」
「ゆたかくん、大丈夫?」
「うん、大丈夫!」



昔から何かと生傷の絶えない男と一緒にいるので消毒液と絆創膏は携帯しているけれど、見たところ擦り傷だけのようなので藍の言う通り、傷口を洗い流すだけで大丈夫そう。
ゆたかくんを抱っこして水道まで歩いて行く藍。
何やら楽しそうにゆたかくんに話しかけて、二人で笑い合っている。

まるで親子のように。
……こんな考えが出て来るなんて思ってもみなかった。
けれど、この表現がピッタリ当てはまる。



「桜月〜、ティッシュちょーだい」
「あ、うん。ごめんごめん」



自分の中に湧き上がってきた考えに驚きを隠せずにいた。
藍に呼ばれてハッとして二人の元に駆け寄る。
明確なビジョンがあった訳でもないけれど、考えたことがないと言えば嘘になる。



「お、電話。もしもーし、志摩?
うん、あ、終わった?オッケーオッケー、じゃあ送ってくよ。
隊長んちな、りょーかい」
「志摩から電話?!」
「おう、ハムちゃん終わったって。ゆたか、帰るか〜」
「うん!」



手を繋いで歩き出す二人。
その後ろ姿がどうにも愛おしくて、思わずスマホのカメラでそっと二人並んだ姿を写真に収めた。



「ん?どした〜?」
「何でもないよ」
「桜月ちゃん、帰ろう〜」
「うん、そうだね」



早く早く、と私の元まで戻って来たゆたかくんが何てことなく手を繋いでくれた。
短い時間で私にもすっかり慣れてくれたのはきっと藍が間に入ってくれたから。
人懐っこいだけじゃない。
いつか子どもが好きだと言っていた彼の言葉を思い出した。


































「楽しかったな〜」
「ふふ、そうだね。またゆたかくんと遊びたいな」
「隊長に言っとくよ」
「うん」



ゆたかくんを無事に家まで送り届けて、その足で買い物に向かうつもりだった。
が、エコバッグを忘れるという痛恨のミス。
急いでいる訳でもないし、散歩がてら一度帰ろうという藍の提案を断る理由もなく。
先程までゆたかくんが間にいて三人だったけれど、今は二人で手を繋ぐ。



「さっき、」
「ん?」
「ゆたかと俺がサッカーしてる時、何考えてた?」
「んー?」



どうやら彼の鋭い嗅覚は誤魔化せないようだ。
本当に変なところで勘が良くて困る。
誤魔化すつもりもないけれど、何となく口にするのは照れくさいものがある。



「いや、二人が遊んでる姿見て思っただけ」
「なに?」
「えー……藍はいいパパになりそうだな、って」



改めて口にすると恥ずかしさが増すもので。
隣を歩く藍の様子を伺い見れば何やらニヤニヤしながら頭を掻いている。
……それはそれで何となくイラッとするのは何故だろうか。



「何、笑ってんの?」
「いや〜、それってつまりアレじゃん?
俺がパパでー、桜月がママって想像したってことじゃ〜ん?」
「………っ?!
べ、別にそういうつもりで言った訳じゃ……!」



私の話なんて聞いていないのだろう。
耳が良いくせにこういう時の藍は、人の話が耳に入らないことはよく知っている。
何よりの証拠に、



「そっかそっか〜、桜月はそんな想像しちゃうくらい俺のことが好きなのか〜」



等と、のたまっている。
否定はしない、けれど往来のど真ん中でそういう発言は止めてもらいたい。
ちょっと黙って、と制するものの聞くはずもなく。
只管にニヤニヤしている藍に思わず溜め息が漏れる。



「まぁ俺らも付き合い長いし、そろそろいいかもな〜」
「……何、が?」



何となく、嫌な予感がする。
続く言葉の予想がついているからこそできれば聞きたくない。

嫌だとか、そういうのではなくて。
せめてムードというか雰囲気というか、何度でも言うけれど往来のど真ん中で聞きたい台詞ではない。



「ん?けっこn「ちょっと待って!!」」



予想通り過ぎる発言を食い止めようとして平手打ちする勢いで藍の口を塞ぐ。
何だよー、と不満そうだが油断も隙もあったものではない。

いつものノリで言われたら溜まったもんじゃない。
何が悲しくて汗だくの身体で往来の真ん中で、一生に一度のプロポーズを……いや、まだ明確に何と言うつもりなのかは分からない。
でも、確かにさっき「結婚」と言いかけたはず。



「あっ、ほら。着いた!エコバッグ取って来るから!」



渡りに船、とはまさにこのこと。
気づけばアパートの前。
半ば逃げるようにして藍から手を離せば、すぐに手首を捕まえられた。



「藍、……?」
「今度はちゃーんとふいんき作るから、次は逃げんなよ」
「………カッコつけても雰囲気言えてない時点で残念なんだけど」
「ふいんきだろ?」
「雰囲気ね、雰囲気」
「九ちゃん見たいなこと言わないの」



微妙にカッコがつかないけれど、それはそれで藍らしい。
今度こそ、と手を離してもらい、アパートの中へ。
本当に、彼と一緒だと心臓が破裂しそうなくらいに跳ねてしまう。
それすらも悪くないと思ってしまう辺り、相当重症だ。

それでも藍の言う『ふいんき』を楽しみしておこう。
それはきっと最高の瞬間になるはずだから。


*未来予想*
(お待たせっ)
(よし、じゃあ行くか〜)
(藍、夕飯食べたいものある?)
(んん〜?そうだな〜……魚系?)
(魚ね……あ、最近きんぴら食べてないからきんぴらにして……うん、じゃあ今日は和食にしようかな)
(…………)
(うん?どうかした?)
(ん?桜月はいい奥さんになりそうだな〜って思っただけ♪)


fin...


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