MIU404

□唇
1ページ/1ページ




「ねぇ……、」
「んー?」
「何で藍の唇はそんなにツヤツヤなの?」
「………ん?」



前から思っていた。
ほぼ同じような食事を摂っていて
同じボディソープを使って
(シャンプーやトリートメントは別だけど)

寧ろ24時間の当番勤務がある彼の方が私よりも生活リズムは不規則で睡眠時間が短いはずなのに。
しかも私よりも年上なのに。



「肌も唇も何でそんなにツヤツヤぷるぷるなのよ」
「えー?何だ、それ」
「ボディソープ、お風呂場にあるやつ使ってるでしょ?」
「うん、桜月が買ったやつ」
「スキンケアしてる気配なんてないのに」
「んー、面倒じゃね?」
「そうよね、冬場にちょっとカサカサするって私のクリームつけるくらいよね」



洗顔後に化粧水つけて美容液、乳液、さらにクリームで蓋をして……それでも藍みたいにぷるぷるな唇になるのは保湿した後30分だけなのに!
春から夏の間はまだいい。
秋の終わり頃から冬が終わるまで、空気が乾燥している時期は保湿に加えてリップが手放せない。
何て不公平な世の中。



「いいなぁ、ツヤツヤぷるぷる」



ソファに凭れて座る藍の隣。
正座を崩してソファの座面に座って、ひたすらに藍のツヤツヤな唇を見ていた。

羨ましい。

………触り、たい



「藍ちゃん、」
「んー?」
「触りたい」
「ん?何に?」
「藍の唇」



あ、こっち向いた。
スマホをいじっていて俯き加減だった顔を上げて、珍しく驚いた表情をしている。



「えいっ」
「っ、」



隙有り、とずっと気になっていた彼の唇に人差し指を当てる。
やっぱり見た目通り、しっとりしてて柔らかくて触り心地がいい。
少しの刺激ですぐに皮が剥けてしまう私のそれとは大違い。
ふにふにと軽く押せば弾力があって、指に吸い付くような感覚。

……藍とのキス、気持ちいいもんなぁ。
誰かと比較する訳じゃなくて純粋に触れる感覚が気持ちがいいというか。
ダメだ、私は何を考えているんだ。

疚しい考えが頭を過り、慌てて指を離す。
完全に引っ込める前にその指先を捕まえられた。



「、藍ちゃん?」
「なーに考えてたの?」
「っ、別に……ぷるぷるだなって」
「ホントに?」



あぁ、もう。
勘が鋭い彼にはきっとお見通し。
その証拠に触り心地のいい唇とは裏腹に、瞳は熱を帯びてギラギラしている。
背筋がゾクゾクするのが分かった。



「あ、い……」
「考えてたこと、当ててやろっか」
「なに……」
「ちゅーしたい、そういう顔してた」
「っ、」



捕まえられた指先に唇を寄せられたと思えば、ぺろりと舐められた。
初めてのその感覚に肌がぞくりと粟立つ。
それすらも見透かされているようで、ふっと笑った吐息が指先に触れたことすらも私を淡く刺激する。



「そんな顔して、俺のこと誘ってる?ん?」
「……そんなことない」
「そんなことあるって」



ゆっくりと姿勢を変えて、距離を縮めてくる藍。
私の膝の間に手をついて、身長差故に少し上から瞳を覗き込まれる。
こんな至近距離で見つめられるようになるなんて、昔は想像もしていなかった。

更にその距離が少しずつ近くなって、藍の輪郭がぼやける。



「俺は桜月の唇、すきだよ」



触れ合う寸前にそんなことを囁かれた。

あぁ、もう。
顔から火が出そう。

それでもやっぱり彼の唇は柔らかくてしっとりしていて、気持ちが良くて。



「藍、ちゃん……」
「ん?」
「……もっと、」
「んー?何が?」



分かっているクセに、と内心悪態をつくけれど今の藍はきっと言わない限り続きをしてくれない。
だって意地の悪い笑みを浮かべて私の出方を伺っているから。



「もっと、キス、したい」
「よくできました」



その言葉と同時にキスが降ってきた。
先程の触れるだけのものと少し違う、ゆっくりと押し付けられるキス。
いつの間にか後頭部をホールドされて、角度を変えて、濃度の高いものへと移っていく。



「ん、」
「……ねぇ、桜月?」
「ん……?」
「俺、スイッチ入っちゃった」
「、え……」



待って、と止める暇もなく天地がひっくり返ってソファに仰向けにされる。
肘掛けに頭をぶつけるかと思ったら、その前に彼の大きな手が後頭部と肘掛けの間に入り込んで衝撃を逃れた。
そのまま顔の横に手をつかれてソファが軽く沈む。



「藍、ちょっと待って」
「んー?むーりー。
だって桜月が先に煽ってきたから」
「ちょ、っ……」



噛み付かれるようなキス。
呼吸までもが奪われるようで、頭がクラクラする。

こうなった藍を止める術は私にはない。
それならば、形が良くて感触の良い唇が
顔中に、身体中にキスの雨を降らせるのを甘んじて受けよう。


*唇*
(いつの間に無自覚に誘うようになったのかなぁ?)
(誘って、ないっ)
(唇触ってくるなんて積極的じゃん?)
(だから、そういうつもりじゃ……)
(はいはーい、好きだから触りたくなるんじゃん)
(……ばかっ)


fin...


次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ