MIU404

□私だけしか知らない
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「ただいま〜」
「おっ、おっかえり〜!ハムちゃん元気だった?」
「うん、元気だったよ。仕事楽しいって」
「いいなぁ〜、俺もハムちゃんとご飯行きたかった〜 」
「あぁ、ゆたちゃんも皆に会いたいって言ってるみたいで、今度桔梗さんのおうちでご飯しようって話になったよ」
「おっ、いいね〜。ハムちゃんのご飯楽しみ〜」
「……手洗いしてくるね」



何てことない会話のはずなのに、先程までのハムちゃんとの話に引きずられているんだろうか。

特別扱いされたいなんて
私にしか見せない藍の顔が見たいだなんて



「桜月〜?」
「んー?わぁっ?!何、どしたの?」
「それは俺の台詞。元気ないじゃん?どした?」



手を洗っていれば急に後ろから抱き締められた。
本当に、変なところで勘が鋭い。



「ハムちゃんと喧嘩でもした?」
「違う違う、そんなんじゃないよ。ちょっと藍の話になってさ」
「俺?」
「そう、二人きりの時って藍はどんな感じなの?って聞かれて、改めて考えると二人きりでも皆といる時でもあんまり変わらないかも、って」
「ふーん……?」
「あぁ、悪い意味じゃないよ。
藍はどんな時でも自分の感情に素直っていうか。
だから……って、藍?」



ホールドされていた身体が自由になり、流したままだった水を止めて振り返れば、
『へー、ふーん?そっかー?』
と謎の相槌を打ちながら、リビングへと姿を消す藍。
何だ、急に。
首を傾げながら後を追うようにリビングに戻ればソファの上で膝を抱える藍の姿が目に入る。



「……藍?」
「俺はさー、どんな時でも桜月が大好きで、いつでも桜月が一番大事なんだけど」
「うん?」
「それが伝わってないのかーって思って〜」



これは……怒っている、というより拗ねている。
つまるところ、いつでも一番に思ってくれているからどんな時でも態度が変わらないということなんだろうか。
……女の子を見ては『きゅるっとしてる』なんて発言をする藍を見ているから何とも言えないけれど、割と本気で拗ねているっぽいところから察するにあながち嘘でもなさそうだ。




「藍ちゃん」
「ん」
「ごめんね?」
「ん」



ソファに座る藍の隣に腰を下ろして少し高い位置にある肩に頭を乗せながら謝れば、そっと肩を引き寄せられて藍との距離がぐっと近くなる。



「ハムちゃんに特別扱いされなくていいの?なんて言われたけど、藍はいつでも特別扱いしてくれてたんだよね」
「ん」
「気づかなくてごめんね?」
「ホントだよ」
「だって、初めて会った時からあんまり変わらないから」
「ずーっと桜月が一番大事だもーん」
「……その発言はちょっと問題ですよ、お巡りさん」



少し茶化すように言えば、膝を下ろした藍が締まりのない顔で覗き込んできた。
出会った頃から一番というのは、つまり奥多摩の交番勤務の時からで。
お巡りさんとしてはあまり良くない発言だと思うけれど。
それはそれである意味では特別扱いなんだろう。



「でも、あれだな」
「うん?」
「桜月に伝わってなかったんなら、もっとちゃーんと教えてやらないと、な?」
「……うん?」



緩んでいた頬に若干黒い影が過ぎったのは気のせいだろうか。
……いや、気のせいじゃない。




「あ、の……藍ちゃん?」
「ん?」
「笑顔が、怖いんですけど」
「俺の特別な顔、見たいんでしょ?」
「いや、それは……」
「桜月にだけ、見せてやるよ?」



ニヤリと笑ったその顔に、心臓を撃ち抜かれたような衝撃を受けたのは内緒の話。
きっとその笑顔が見られるのは私だけ、だよね?


*わたしだけしか知らない*
(ん……も、むり……)
(えー?まだまだ色んな顔見たいんだけどな〜?)
(趣旨が変わってるから……)
(ほらほら、時間はまだいっぱいあるんだから〜)
(何で、そんなに元気なの……)
(んー?桜月が好きだから?)
(もうっ……)


fin...


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