MIU404

□君がいれば怖くない
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トイレの掃除をしていて、ふと気づいた。

……最後にサニタリーボックス使ったの、いつだっけ?
先月は、なかった。先々月は……あれ、なかった?
その前はどうだった?



「……え?」



元々、規則正しく毎月必ず来ている訳でもなかったけれど、3ヶ月も空いたことはたぶんなかったはず。
記録用につけていたアプリを開けば、やっぱり3ヶ月前で止まってしまっている。



「まさか、ね……」



そういえばいつだったか、最中に避妊具が破れただか外れてただか言っていたことがあった気がする。
あの時は何とも思っていなかったけれど、もしそれが原因で妊娠、していたとしたら……?



「どう、しよう」

「たっだいま〜。あー、腹減ったー」
「……藍ちゃん」
「ただいま……ん?どした?何かあった?
何でそんな泣きそうな顔してんの?」
「藍ちゃん〜……」
「よーしよし、どうした〜?藍ちゃん帰ってきたから大丈夫だぞ〜」



よほど情けない顔をしていたのだろう。
帰宅した藍に少し心配そうに顔を覗き込まれれば、押し寄せてきた不安が涙となって溢れてくる。
それを察したのかは分からないけれど、優しく包み込んでくれる藍。
普段はヘラヘラしているのに、こういう時だけはどうしてこんなに頼りになるのか。

































「そんで、どうした?何かあった?」



よしよし、と宥められてソファに座るよう促された。
背中を優しく擦られて少し気持ちも落ち着いてきた。
それでも不安は拭い去れないけれど。



「……その、」
「うん?」
「生理が、来なくて……」
「どのくらい?」
「3ヶ月、くらい……こんなに来なかったのって、今までなくて」
「んー、そっか」
「赤ちゃんできてたらどうしようって、不安になっちゃって……」



万が一、そうだったとして。
どうしたらいいんだろう。
勿論、喜ばしいことではあるけれど、まだそういうことを考えてはいなくて。
それに今、彼は仕事が楽しいと言っていて、それを邪魔はしたくなくて。



「そっかー……」



不安と心配と、様々な感情が入り混じって、顔が上げられない。
そんな私の頭をひたすらに撫でていた藍がどこか他人事のようにぽつりと呟いたのを聞いて、お前のことでもあるんだぞ、と思わず顔を上げた瞬間。



「じゃ、区役所行くか」
「……は?」
「区役所」
「なん、で……?」
「ん?何でって、婚姻届もらいに」



理解が追いつかない。
足が速いのは知ってるけど、藍の考えにも追いつけない。



「あー、その前におやっさんとこに挨拶行く?」
「え、ちょ……、何が」
「ん?」
「区役所……?挨拶……?」
「はっ!まさか……」
「何……?」
「俺の子じゃない?!」
「それだけは絶対に、ない」
「知ってる〜」



追いつかないながらも、有り得ない発想だけは否定しておく。
そんなはずがある訳がない。
それはさすがに分かっていて言ってるようで、笑いながらわざとらしい反応をするのは止めて欲しい。

えー…と、区役所が先か挨拶が先か。
違う違う、その前に。



「藍ちゃん」
「んー?」
「婚姻届って、」
「まぁ、順番は逆になっちゃったけどさ?
結婚しよっか」
「っ……うぅ〜……」
「あー、ほら泣くな泣くな」



ダメだ、今日は涙腺が決壊してる。
いつもはこんなに泣くことなんてないのに。
ボロボロになった顔にティッシュを当てられてゴシゴシと擦られる。

痛い。
夢じゃ、ない。



「嫌?」
「そんな訳、ないじゃない」
「ん、じゃあ区役所」
「でもっ、いいの……?」
「何が?」
「だって、機捜の仕事楽しいって」



言葉に出さなくても分かる。
機捜という仕事にやり甲斐を感じていることは。



「んー?確かに機捜は楽しいけど俺、欲張りだし?
桜月のことも機捜の仕事も全部大事だし?」
「藍ちゃんのばか〜……」
「はいはい、バカですよ〜」



止まったと思った涙がまた溢れ出す。
藍の温もりに包まれながら、先程まで抱えていた不安がゆっくりと解けていくのが分かった。

この人を好きで、本当に良かった。
なんて、本人には言わないけど。











その後、何においてもまずは妊娠が確実なのか病院で検査してもらったら、単なる生理不順、というオチだった訳で。



「そっかー……」
「何か、ごめんね。
生理促す注射してもらったから、たぶんすぐ来ると思う」
「桜月と俺の赤ちゃんなら絶対可愛いと思ったんだけどな〜!」
「ホントごめん……」
「いいっていいって、でも結婚はしとく?」
「うーん……まだ、いいかな」
「え、マジか」



割と本気でショックを受けている藍に思わず笑ってしまった。
もう少し、恋人って関係を楽しみたいかな、なんて言えば。



「じゃあ、恋人らしいこと、しとく?」



そう言って抱き寄せられてキスの嵐を喰らったのは言うまでもない。


*君がいれば怖くない*
(そういえば今日診てくれたお医者さんが生理不順が気になるなら、低用量ピルを服用して様子見てみましょうって)
(そっか、前から気にしてたもんな〜)
(鴻鳥サクラ先生って先生でね、めちゃめちゃ優しい人だったよ)
(へぇ〜良かったじゃん?)
(うん、藍にそっくりでビックリしたけど)
(……男?)
(え、そうだけど?)
(ダメ!次から女の先生にしてもらって!)
(すぐそういうことを言う……)


fin...


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