MIU404

□幸福な時間
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「んー……はっ、8:30……?!」
「どしたー……?」
「あ、……今日休みか……焦った」
「そうそう、休み休み〜。だからもうちょっと寝よーぜ?」



いつもならば隣で寝ている彼はもう出勤している時間に目が覚めた。
焦って身体を起こしたところで、一昨日24時間の当番勤務をしてきたことを思い出してゆっくりとベッドに戻る。
そもそも仕事の日は意外ときちんと起きて準備する藍がこんな大寝坊をするはずがない。
慌てて損した、と本気で思う。

人の心配を余所に起き抜けで、普段以上にのんびりした口調で二度寝を誘う彼。
変な起き方をしてしまい、また眠りにつくのは難しそうだけれど休みならもう少しゴロゴロしても問題はない。



「藍ー、朝ごはん何食べるー?」
「そうだな〜、何にする?」
「私が聞いてるんだけど……」
「ん?俺が作るって〜」
「えー?藍が?」



料理ができない訳ではないことは知っている。
別に料理は私の担当、という訳でもなくて私の仕事が忙しい時には藍が作ってくれることもあるし、大体美味しい。
それでも何となく自分の作った料理を食べてもらいたいと思うのは、なけなしの女心というものか。



「じゃあ二人で作るかー」
「たまにはいいかも。で、何にする?和食?洋食?」
「んー……洋食?」
「まぁ今からご飯炊くのも時間かかるしね」



何をするでもなくベッドに二人並んで横になり、藍に腕枕されながらブランチになりそうな朝食の話から始まって取り留めのない話をする。
本人には言わないけど、この時間が幸せですごく愛おしい。



「そういえばゆたかがまた桜月に会いたいって言ってた」
「ゆたちゃん?確かに最近桔梗さんのおうち遊びに行ってないもんね」
「ゆたか、志摩と桜月にすぐ懐いたよな〜」
「藍だって遊んでもらってるじゃない」
「そうだけどさー……って、それ逆じゃね?」
「うん?気のせいじゃない?」
「気のせいじゃないですぅ〜、そういうこと言う子は……こうだっ!」
「あははっ、ちょっとやだ、止めてよーっ!」



わざと言った言葉に引っかかった藍にお仕置きとばかりに脇腹をくすぐられる。
脇腹が弱いのを知ってるのに!



「セイ、ごめんなさい!」
「あははっ、ごめんごめん!ごめんなさーい!」
「よーし」



くすぐっていた手を満足そうに止めるとその手が背中に回って、ゆっくりと抱き寄せられる。
こういう時の藍はきっとニヤニヤしている。



「ほら、やっぱり」
「なーにが?」
「ニヤニヤしてる」
「桜月だってそうじゃん?」



顔を上げて様子を窺えば、予想通りのニヤケ顔。
それを指摘すればニヤニヤしたまま額に額をくっつけられる。
距離が、近い。
フォーカスが合わない。



「なーによ?」
「んー?いやー、幸せだなーと思って?」
「なにそれ」
「だってさー?休みの日にこうして桜月がいて『何食べるー?』とか何でもないこと、話してんのって平和じゃん?」
「そう、だね?」
「こういう時間、めちゃめちゃ好き」



以心伝心とはこのことか。
同じようなことを考えていたなんて。
一緒に生活すると考え方が似てくるなんて言うけれど、あながち間違いでもなさそう。



「奇遇ですね」
「うん?」
「私も、こうしてる時間が結構好き」
「あれ……俺らって気が合うんじゃね?」
「何を今更」
「いいじゃんいいじゃん?」



幸せです、と心の底から思っていそうな笑顔。
本当にもう、この笑顔があれば他は何もいらない、なんて思えるくらいには惚れ抜いているらしい。



「桜月?」
「ん?」
「何考えてんの?」
「んー?朝ごはんは何にしようかな、って」
「そこは俺のことって言うとこ!」
「あはは、冗談だって。藍ちゃんのこと考えてたよ」
「俺も桜月のこと考えてた」
「ん?」



不意に真面目な声色になり、近すぎて焦点の合わない彼の顔を見つめれば、思いの外真剣な表情をした藍がそこにいた。



「藍、?」
「桜月のこと、好きだなーって」
「何よ、突然……」
「突然じゃねーよ?いっつも思ってる」
「そ、う……」



こういう台詞を恥ずかしげもなく言う。
藍は、私が言えない分も合わせて、たくさん言葉をくれる。



「だからさ?」
「……ん?」
「ちゅー、していい?」



不意打ちのキスも恥ずかしいものだけれど、改めて宣言されるのも恥ずかしいもので。
きっと彼はそれを分かっていて聞いている。
私の反応込みで楽しんでいるんだ。



「ダメ、って言ったら?」
「んー?ダメって言っちゃう?」
「……ダメ」
「はーい、聞きませーん」



ダメと言ったところでキスされるのは分かっていたけれど、素直にYesと言えない私の性格。
呼吸が触れ合うくらい近かった距離がゼロになる。



「、ん……」
「もう一回?」
「聞くな、ばか……」
「かーわいい」



今日のコーヒーは砂糖がいらないくらいに空気が甘い。
こんな、休みの朝もたまには悪くない。


*幸福な時間*
(そろそろ起きる?お腹すいた)
(んんー……じゃあ朝ごはん食べたらもう一回イチャイチャしよーぜ?)
(えー、天気いいから洗濯も掃除もしたいんだけど)
(じゃあ二人でさっさと終わらせてイチャイチャ)
(何、今日そういう感じ?)
(俺はいつでもそういうことしたいんですぅ〜)


fin...


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