MIU404

□最善の方法
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「ただいま〜……」
「おかえり、機捜はいつから勤務時間変わったの?」
「ごめんごめん、ごめんね〜?」
「別にいいけど……無理はしないでよね」
「んー……栄養補給〜」



24時間の当番勤務どころか出勤していってから72時間以上も帰って来ないうえに連絡もない。
急に捜査に加わることになって帰れない、とLIMEの1通でもあればいいのに、と不貞腐れていたところにようやく待ち人来たる。
文句は山程あるけれど、相当疲れているようで半ばのしかかるようにして抱きついてくる彼にそれ以上は何も言えなくて。
いつもの悪態を吐く代わりに先程から気になっていた何とも彼らしくないTシャツについて突っ込んでみることにする。



「…………ねぇ?」
「んー?」
「その、明らかに趣味じゃないTシャツは、何?」
「ちょっと、ヤバい薬嗅がされて東京湾に沈められそうになって」
「はっ?!」
「あー、大丈夫大丈夫。事件は解決したから。
そんで近くの店でもらった着替えがこれだった」
「そう……って、ちょっと?藍?」



気づけばソファに押し倒されていて。
何事かと上体を起こそうとすれば、そのまま私のお腹に顔を埋めて深い溜め息を吐く藍。
何、だろう。
いつもと違う、この感じ。
ただ疲れているとか、仕事で何かあったとかそういう感じではない。
ヤバい薬、東京湾に沈められる、なんて物騒な言葉が出て来たくらいだ。
間違いなく何か大事件に巻き込まれていたのだろう。
というよりは彼の仕事上、そうならざるを得ない。



「藍……?」
「ヤバい薬嗅がされてさ、すっげー胸糞悪い悪夢?見ちゃってさ」
「……悪夢?」
「志摩が殺されて、俺が久住を殺す夢。
で、久住の仲間に俺も殺されて海のモズクになるって夢」
「悪夢どころか最悪じゃない」



クズミって誰、と聞きたいところだけれども内容からして今回の事件の犯人だろうか。
夢にしても相当たちが悪い。
…………海のモズク?
海の藻屑と言いたいんだろうけど、今日はそこはスルーで。

ちょっと腰が痛くなりそう、なんて思っていたら抱き締められたまま器用に横向きに変えられた。



「でさ、結局俺ら二人は行方不明扱いで帰って来ない俺をこの部屋で桜月がずっと待ってんの。
マジできつかった〜……」
「………お疲れ様」
「休みなしで働いたのもあるけど、薬の影響が今頃になって出て来てさ」
「え、ソファじゃなくてベッド行く?というか病院行った方いいんじゃない?」
「あぁー、いいっていいって。寧ろ桜月がこうしてくれてた方が病院より全然いい」



そう言って私のお腹に顔を埋めたまま深呼吸を繰り返す藍。
こうしていた方がいいと言われてしまえば、それに抗うことなんてできなくて。
無力な私には彼の力になることはできない。
それでも止まり木くらいにはなれるから。

そっと藍の頭に手を乗せれば、張り詰めていた糸が少しだけ緩んだ気がした。



「少し、寝る?」
「また変な夢見そうで怖ぇな〜……」
「うなされてたら起こしてあげるよ」
「一緒に寝てくれんの?」
「一人の方がのびのび寝れるって言うなら別に私は寝ないけど」
「何でだよ、そこ間違いなく一緒に寝た方がよく寝れるじゃん」
「まぁ……何でもいいけど、とりあえずシャワー浴びたら?
その間に軽く食べる物用意するから」
「んー……そうするー……」



そうする、なんて言いながら動く気配は見られない。
これはこのまま眠ってしまうパターンな気がする。
何があったか具体的なところは分からないけれど、心も身体もすっかり参ってしまっている、そんな印象。
こんな状態になることなんて滅多にない。
それだけハードな事件だったんだろうか。



「藍ちゃん?」
「んー……?」
「ご飯は?」
「んー……」
「お風呂は?」
「うーん……」



反応が悪い。
疲れか、それともよく分からないヤバい薬の影響か。
こういう時は、



「……じゃあ、私は?」
「ん………!!」



数秒の間の後で漫画ならばガバッ、と効果音がつくくらいに勢いよく体を起こした藍の表情は驚き以外の何物でもなくて。
それはそうだ。こんな言い方、普段なら絶対にしない。



「お風呂入って、ご飯食べて、……ベッド、行こ?」



ぶんぶんと首がもげそうなくらいに上下に振って一目散に脱衣所に駆け込んで行った藍。
これで良し。
いつも温かい手の彼なのに、先程触れた指先はやけに冷たくて、気になっていた。
お風呂で温まって、温かい食事を摂ればきっと体温も戻るはず。
そのままベッドに連れて行けば、おそらく仕事の疲れですぐに眠ってしまうはず。
騙す形になってしまうけれど、あの状態の藍を動かすにはこれくらいしないと。

浴室からシャワー音が聞こえてきたのを確認して、待っている間に作り過ぎた料理達を温め直すことにした。
今度こそ食べてもらえますように。


*最善の方法*
(ごちそうさま!)
(お粗末様でした。洗い物しちゃうからベッド行ってて)
(洗い物、後でいいじゃん)
(シンクに置きっぱなしは嫌なの、ね?)
(……分かった)

―洗い物後、ベッドを覗くと

(……藍、ちゃん?)
(zzz……zzz……)
(ふふっ、おやすみ)


fin...


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