MIU404

□貴方に包まれて
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「藍ちゃーん」
「んー?」
「着替え忘れちゃったから着るもの取ってー!」



風呂に入ってた桜月からのヘルプ。
珍しー、と思いながら桜月の服が入ってる引き出しに手をかけて止めた。
いや、ここは俺のTシャツを出そう。
普段から俺が着ているTシャツの良さが分からないと散々言われてる。
着ればきっと良さが分かるはず!



「ほいほーい、お待たっせ〜」
「ごめんねーありがとー」



脱衣所のドアを少しだけ開けてTシャツを渡す。
素直に受け取った桜月がゴソゴソと着ている音が聞こえる。
よしよし、俺のTシャツのカッコよさは着ればきっと分かってくれる。
ニヤケる顔を押さえながらリビングに戻れば、ドライヤーをかけた桜月が何か不満そうな声を上げながら脱衣所から出て来た。
知らんぷり知らんぷり。
ソファに座ってわざとそっちを見ないようにスマホの画面を開く。



「ねー、これ藍のTシャツじゃない。私のなかった?」
「ん?どこ入ってるか分かんなかったー」
「えー?いつもの場所になかった?」



おかしいなぁ……とぶつぶつ言いながらもとりあえず着替える気はないらしい。
一瞬でも袖を通した服は洗濯行きにするから、たぶんあんまり洗濯物増やしたくないんだろうな、なんて思って顔を上げたら。



「………桜月」
「ん?何?」
「めちゃめちゃきゅるっとしてる」
「……は?」



冷蔵庫から麦茶を出しながら、よく分からないという顔をしてる桜月。
めちゃめちゃきゅるきゅる……



「きゅるきゅる魔人?!」
「いや、分かんない。
っていうかこのTシャツ、首回りボロボロなんだけど。捨てなよ」
「分かってないなー!それはわざとそうなってんの!
つーか何?きゅるきゅる魔人?めっちゃきゅんきゅんするー!」
「えぇー……何それ」



カッコいいTシャツ着てるのに何でこんなにきゅるっきゅるしてんの?
何、きゅるきゅる魔人?
テンション上がりまくりの俺とよく分からないままの桜月。



「あ、やっぱり私のTシャツあった」
「いやいや、そのTシャツカッコいいじゃんん?
いっつも分かんないって言うから着ればカッコいいの分かるかなーって思って」
「……それは着てもよく分かんないけど、着心地はいいね。柔らかい素材だし」
「そうそう、それプリントもカッコいいし、結構お気に入り〜」
「ふーん……」



うわ、どうでも良さそう。
それにしても身長が20cm以上違うから俺のサイズは桜月が着ると丈の短いワンピースみたい。
しかもTシャツしか渡してないから、太ももがむき出しで眩しい。



「うっ……うわっ……」
「え、藍?」
「うぅ……!」
「ねぇ、大丈夫?」
「きゅるきゅるビームにやられた……」
「あぁ……はいはい」



胸を押さえながらソファに転がれば、ちょっと心配そうに様子を見に来てくれる桜月。
ホント、そういうとこ好き。
肩に置かれた手を引っ張って腕の中に閉じ込めれば少し抵抗した後、諦めたように力が抜けた。



「もー……何なのよ」
「んー?桜月が可愛くてきゅるっとしてるからどうしようって話」
「何それ」



可愛くないし、と言うけれど俺にはやっぱり可愛くて。
カッコいいと可愛いのコラボはこんなにきゅるきゅるするものかと今日のいい発見。



「ねぇ、重いでしょ?」



俺の上で居心地悪そうにまたもがき始めた桜月。
腕の力を緩めれば、むくりと起き上がってソファに降りてくしゃくしゃになった髪を撫でている。



「別に重くないから気にしないんだけどなー?」
「……私は気にするから」



恥ずかしそうにしている横顔がきゅるっとしてて、もう止めらんない。
もう一回引き寄せて、今度は俺が上になってソファに寝かせる。



「藍、ちゃん……?」
「きゅるきゅる魔人のきゅるっとした声、聞かせて?」



一瞬、目を見開いた桜月が『何言ってんの』と恥ずかしそうにしている。
その反応すらも可愛くて、顔を近づければ観念したように目を閉じる桜月の唇に触れるだけのキスを落とした。


*貴方に包まれて*
(きゅるきゅるだった〜)
(その、きゅるきゅるって分かんない)
(んー?何つーの、こう……きゅるっと、きゅんきゅん?)
(説明になってない)


fin...


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