MIU404

□甘い香りに誘われて
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「……あ、」
「ん?」
「金木犀の香り」
「お、ホントだ〜」
「もうそういう時期なんだね」



買い物帰り、どこからか香ってきた金木犀の甘い匂い。
その方向に目を向ければ、隣を歩いていた嗅覚の鋭い彼は既に同じ方角に視線を動かしていた。
さすがです。



「私、金木犀の匂い好き」
「ん?」
「何かさ、この時期って私的には一番過ごしやすくて、その時期に咲く金木犀も好き。
花も可愛いし匂いもずっと嗅いでられる」
「へぇ〜?」



金木犀の香りを胸いっぱいに吸い込めば自分でも頬が緩むのが分かる。
そんな私を見た彼が私以上に顔をニヤケさせながら前方を塞ぐようにして立ちはだかり、顔を覗き込んできた。



「……何?」
「珍しいなって、桜月がそんな顔して好きな物の話するの」
「そう?」
「俺の話をする時は照れるか恥ずかしがるか嫌そうな顔するかのどれかじゃん?
そーんな可愛い顔してんの、ちょっと妬けるなぁ〜?」
「何言ってんの?」
「藍ちゃんの話をする時もそういう顔見せて欲しいなーって話」



どうして話が面倒な方向に向かってしまうのか。
好きなものを好きと言って何がいけないのか。
というよりどんな表情をしていても個人の自由であって。



「……はぁ、」
「ん?ん?」
「帰ろ」
「んんー?桜月ー?」



こういう時の藍は相手にしないに限る。
半分は冗談で言っていることがほとんどなんだから。
荷物を持ち直して改めて帰路につく。
私の後を左右に行ったり来たりしながら付いて来る藍。



「荷物置いたら〜、散歩行こ?」
「……散歩?」
「そ、他にも他に金木犀咲いてないか探しに行こーぜ?」
「…………」



瞳をキラキラさせながら、少年のようなことを言う。
いい年して、とも思うけれど何とも彼らしい。



「そうね、たまにはゆっくり散歩もいいかも」
「よし、決まり〜」



早く荷物置きに行こーぜ!と私の手の荷物まで引ったくるようにして持って駆け出した藍。
彼が本気で走ったら追いつけるはずもない、と慌ててその背中を追いかけた。


*甘い香りに誘われて*
(あっちから匂いがする!)
(……どんな嗅覚してんの?)
(え、分かんない?)
(まるで犬並みね)
(だって俺、犬派だもーん)
(……はいはい)


fin...


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