MIU404

□全てお見通し
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「ねぇ、そういえばさ?」
「んー?」
「えーと……これ、」
「ん?」



大きい捜査が終わって、ようやく帰って来た彼と部屋でのんびり過ごしていた昼下り。
ソファに寝転がってスマホを弄る藍と、ソファの前に座ってタブレットで遊ぶ私。
そういえば、と思い出してスクショしていた画面を開いてタブレットを藍とスマホの間に割り込ませた。

彼が不在の間にツブッターで拡散されていたタグの1つ。
トレンド1位にまでなったタグに載せられた写真には見知った車と、見慣れた顔。



「おっ、メロンパン号じゃ〜ん」
「喜んでる場合か」
「これなー、確かにめちゃめちゃ写真撮られてた〜」
「爆破テロなんて何事かと思った」
「もしかして〜……心配してくれた?」
「連絡ないし、生存確認できて良かったよ」
「そっちかーい」



ガセネタであるのは分かっていたし、次の日にはツブッター上で自浄されていたので心配はあまりしていなかった。
その後も暫くは賑わっていたけれど、人の興味は移ろいやすいもので今はすっかりタグ付けをしてツブートしている人はいなくなった。
それはそれとして、賑わっていた最中のある1件のツブートが私としては引っかかっていた。



「……イケメン、って」
「ん?」
「乗ってる人がイケメンってツブートしてる人がいた」
「えっ、マジ?見る目あるじゃーん」
「志摩さんはともかく、ねぇ……」
「そうそう、志摩は……って、おい」



わざとらしいツッコミはこの際、無視。
彼の手の中にあったタブレットを引き取ってスクショ画面を消したうえでタブレットをテーブルに伏せる。
ついでに私もソファに背を向けて床に寝転がる。

自分の彼氏がイケメンと言われて嬉しいような、見知らぬ人から見てもそうなのかと少し心配な面があるような。
ちょっと……いや、結構複雑な心境だった。
写真が出回っていたのはタグが賑わっていた時の話で、今は何も気にすることはないのだけれども。
何だろう、このモヤモヤした感じ。



「ん?桜月?」
「別に、何でもない」
「別にって顔してないぞー」
「………」
「んー?どしたー?」



ソファを下りて私の前に胡座をかいて座り込む藍。
きっとそうしてくれるだろうという期待も若干込めていた。

構ってちゃんか、私は。

当番勤務の24時間ですら長く感じるのに、丸三日以上も帰って来なくて。
前にガマさんの事件があった時はひたすらに心配だったけど、今回は何故かツブッターで炎上してて、しかも何かイケメンとか言われてて。



「……何か、」
「ん?」
「ムカつく」
「ん?ん?何が?何で?」



このやり場のない感情はどこに向ければいいんだろう。
そもそも何で私がこんなにモヤモヤしなければいけないのか。
昔から人気があったことは知ってる、主に近所のおば様……訂正、年上のお姉様方に。
息子や孫を可愛がるみたいに藍がチヤホヤされていたのは見てきたけれど、見ず知らずの若い女性にそんな風に言われるのは何となく面白くない。



「桜月?」
「……この顔がいけない」
「いててて、何?どした?何怒ってんの」



覗き込んできた藍の頬を抓れば、優しい顔で笑いかけてくる。
私が同じことをされたら間違いなく面倒くさがって相手にしないのに。
普段は子どもっぽくて仕様もないことばかり言ってるのにこういう時はここぞとばかりに優しくしてくる。
人の機微に敏感で、人が弱っているところを絶対に見逃さない。
何だかんだ言っても藍の方が大人だと痛感する。

そして自分がどうしようもなく子どもだということも。
自覚したら鼻の奥がツンとする。
泣きそうな顔を見られたくなくて体勢を変えて藍の腰に抱きつく。



「桜月ー?桜月ちゃーん?」
「…………私の、だもん」
「ん?」



呟きは彼の耳には届かなかったようで、頭上から不思議そうな声が降ってくる。
きっと首を傾げているんだろうな、なんて見なくても想像できるのは付き合いの長さからか。



「んー?今日は甘えた魔人?」
「…………」



返事の代わりに彼の腰に回した腕に力を篭めれば、優しい声で名前を呼ばれてぽんぽんと頭を撫でられる。
こっち見て、と言われている気がして顔を上げれば、いつもの機嫌の良さそうな笑顔ではなくて声色と同じ、優しい表情。
そんな顔、狡い。
彼の言葉を借りるなら、きゅんとしてしまう。



「ほーら、こっち」
「……ん」



両手を広げられれば、断る理由なんて今の私にはなくて。
素直にその腕に飛び込めば、力強く抱き締められる。
ちょっと苦しい。でも、それ以上に嬉しい。



「甘えた魔人だと思ったら、きゅるきゅる魔人じゃーん?」
「何、それ」
「めちゃめちゃ可愛い」



そんなことを幸せそうな声で言うから恥ずかしくて顔が上げられない。

それでも名前を呼ばれれば顔を上げざるを得なくて。
そっと体を離して目線を彼の顔まで上げれば、止める暇もなく唇を重ねられる。



「桜月?」
「な、に……」
「ヤキモチかーわいい」
「っ……」



バレていないと思ったら、大間違いだった。
勘のいい藍が私の小さな嫉妬に気づかないはずもなく。
分かっていて付き合ってくれる辺り、大概彼も私に甘い。


*全てお見通し*
(心配しなくても桜月しか見えてないから大丈夫だって)
(可愛い子見てきゅるきゅるとかきゅんきゅんとか言うくせに)
(それはそれ、好きなのは桜月だけ〜)
(……ばか)
(桜月バカだからな〜、俺)
(ホント馬鹿!)


fin...


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