MIU404

□君のオススメ
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天気が良くて昼下りの気持ちの良い時間にはすっかり洗濯物も乾いていて。
最近好きな曲をBluetoothイヤホンで流しながらベランダに干した洗濯物を取り込む。
この時間は結構好き。
リズムを刻みながら知らず知らずの内に鼻歌まで出ていたようで、同居人の帰宅にも全く気づかなかった。



「たっだいま〜」
「びっ、くりした……おかえり、藍」
「なーに聞いてんの?」
「あ、ちょっと」



彼の出現に驚いて片方のイヤホンを外せば、すぐさまに手から奪われて止める間もなく耳に当てられる。
いや、別に聞かれてマズいような物は全くないのだけれども。



「あ、聞いたことある。YOFUKASHIの『空に駆ける』だ」
「流石、よく知ってるね」



私以上に音楽、特に邦楽に強い藍は一瞬聞いただけで歌手名だけでなく曲名まで当ててしまった。
曲自体は1年ほど前にアップされた曲だけれども、ナウチューブで最近1億再生したとかで友達がリツブートしていたのを見かけた。
そこから何となく聞くようになって、今ではすっかりハマってしまっている。



「まぁね〜、ていうか俺的には桜月がこういうの聞く方がビックリなんだけど。普段ピアノの曲ばっかじゃん?何だっけ、赤ちゃんの曲」
「……BABYね、ジャズピアニストの」



確かに普段はBABYと呼ばれる正体不明のジャズピアニストの曲を聞くことが多い。
彼のピアノには何か惹き付けられるものがある。
ただ、だからといってそればかりと聞いているということもない。
薦められれば邦楽も洋楽も色んなジャンルの曲を聞く。
その中でも好みはあるけれど、基本的に音楽の好き嫌いはない。



「この曲はツブッターで友達がリンク貼ってて聞いてみたらいいなって思ったの」
「ふーん……?」



何とも歯切れの悪い返事をしながらイヤホンを外して私の手に戻して室内に戻っていく藍。
何だろう、この感じ。
内心首を傾げながら残りの洗濯物を取り込んでしまう。
室内に戻れば、ソファに座ってスマホをいじる彼の姿。
その後ろ姿が何とも哀愁漂っている……ように見える。
耳に付けっぱなしだったイヤホンを外して流していた曲も止め、覗き込むようにして彼の隣に腰を下ろした。



「藍、どしたの」



ちらり、と横目で私の顔を見た後でふいっと顔を逸らされた。
何なんだ、全く。
急に不機嫌になられてもこちらとしても対応に困る。
彼の帰宅からの一連の流れで不機嫌にさせる要素はどこにもなかったはず。
それなのに、だ。



「ねぇ、藍ちゃん?」
「別にー?俺のオススメの曲送っても聞いてくんないのになーって」
「ん?」



…………俺のオススメ?曲?
今私が聞いていたのは友達のオススメ曲。
個人的に薦められたものというよりは「これいいよ!」というくらいのライトな気持ちでリツブートされていたもので、私も何となく目に止まったから聞いているだけで。
ただ、それが藍にとってはあまり面白くないらしい?
つまるところ、友達に薦められた曲は聞くのに自分の薦めた曲は聞いてくれない、と拗ねている?



「……ヤキモチ?めんどくさ」



相も変わらず面倒な、と溜め息が漏れる。
本当に感受性豊かな男だと思う。
一見豪胆かと思えば些細なことを気にかけてこうしてすぐに拗ねたり落ち込んだり。
感情の変化がジェットコースター並みで情緒不安定なのか、とたまに心配になる。
何はともあれ彼の憂いは杞憂なのだから早々に解消してあげる必要はある。
おとなしい彼をもう少し見ていたい気もするけれど、本格的に拗ねてしまうのはまた面倒で。
仕方ないのでスマホを操作して先程から流しっぱなしだった曲を止めて、ある画面を開いてから藍の前に差し出す。



「藍ちゃん」
「なに……あ、」



開いた画面には藍から薦められた曲の数々。
他の曲と一緒にならないように藍から薦められた曲を入れるプレイリストを作ったものの、玄津米師、Alexando、King yu……次から次へと、あれもこれもと出て来るからプレイリストの中はごった煮状態。
これはこれで次に何が流れるか分からないから、なかなかに楽しいものがある。



「藍からのオススメ曲もちゃんと聞いてるけど?藍がいない時に聞くことが多いから聞いてないように見えるだけ」
「……一緒に聞けば良くない?」



言っていることはごもっとも。
これまで彼から薦められた曲を彼の前で聞いたことがなかった、というか歌詞のある曲自体をあまり聞くことがなくて。
結果的にBABYの曲が多くなってしまった、というのが正解。
邦楽も洋楽も聞かない訳ではない。
でも、彼といる時は楽曲に集中して話が疎かになるより、藍との時間を大切にしたい。
それに、



「音楽は好きだけど、どっちかっていうと暇つぶしみたいなものだし」
「ん……?」
「藍と、一緒にいる時は別にいいの。藍がいるから暇つぶしも必要ない」



そう、時間を持て余しているから音楽を流したり、本を読んだりするのであって。
彼がいる時間はそういうことをする必要はない。
別に藍が暇つぶしになってくれるとかそういうのではないけれど、彼がいると何をしていても飽きないというか。



「藍といれば楽しいから」
「、きゅるきゅる〜っ!」


結局、藍から薦められた曲を1つずつ聞きながら色々と話し込んでいるうちに夕飯の準備も忘れてしまって外食する羽目になったのはまた別な話。


*君のオススメ*
(YOFUKASHI好きなら桜月はこういうのも好きそう)
(んー?あ、うん。好きかも)
(じゃあこっちは?)
(好き)
(じゃあ俺は?)
(大好き)
(そういうの反則……)
(言わせといて照れないでよ、恥ずかしい)

fin...


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