MIU404

□甘い抱擁
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お互いに何も予定のない休日。
たまにはデートしよう、と言われて断る理由もなく。
ついでに買い物をするつもりで出かけたら思いの外、ちゃんとデートだった。



「何か……ちゃんとしたお出かけって久しぶりだね」
「だからデートって言ったじゃん?」
「それは、そうなんだけど……」



買い物ついでのつもりだった、なんて口が裂けても言えない。
もしかしたら勘のいい彼は気づいていたかもしれないけれど。
ウィンドウショッピングで服を見たり、アクセサリーショップを冷やかしたり。
少し歩き疲れた私が休みたい、と言えばオシャレなカフェのテラス席に連れて来られた。

そういえば最近お互いに仕事が忙しくて、こうやって出かけようとも言えない雰囲気だった。
いや、たぶん出かけたいと言えば彼は一緒に来てくれたとは思うけれど、ソファでぐったりしてる姿を見ているのにその提案をする気にもなれず。
藍はおうちデート、なんて称してはいたけれど結局は日常の続きで。



「ん?どした〜?」
「んーん、たまにはお出かけもいいね、と思っただけ」
「だろ〜?」



そのドヤ顔はちょっとイラッとするけれど。
気分転換、という訳ではないが出かけるのも悪くない。
彼が隣にいるなら尚更に。

…………それにしても、さっきから、というより店に入った時から視線が集まっているのを感じる。
正確には対面に座っている彼への視線。
確かに目立つ出で立ちではある。
身長は高いし、顔だって悪くない。
口を開けばほとんど馬鹿なことしか言わないけれど、黙ってコーヒーを飲む姿は贔屓目に見てもカッコいい。
手足は長くてスラッとしてて……たまに本気で思う、何で藍ちゃんは私を選んでくれたのだろう。

奥多摩にいた頃から老若男女問わず誰からも好かれていて、本気になれば引く手数多だったはずの彼。
いや、自分が人から好かれていなかったとは言わない。学生時代は告白されたことだってある。
それでも彼と自分が釣り合っているかと聞かれたら自信をもって頷けない。



「桜月?」
「……ちょっと、トイレ」
「ん?うん?」



久しぶりのネガティブ発動。
ちょっと気持ちを切り替えないと駄目だ。
トイレに行く程度の短い時間でどうにかなるようなレベルではないことは分かっているけど、それでも多少はマシになる、はず。

洗面台で水を流しながらゆっくりと手を晒す。
水の冷たさが頭も冷やしてくれればいいのに。





























念入りな手洗いの後で席に戻ろうとして足が止まる。
二人組の女の子がテラス席の向こう側、歩道から藍に向かって話しかけているのが見えた。
やけにパンクというか、どこかで見たことのあるような……そういえば前に藍が聞いていたBABYNETALのMVであんな格好をしていたような……いや、本人でないことは分かっているんだけれども。
遠目で見ても楽しそうな雰囲気。



「だーから、彼女と来てるって言ってんじゃん」
「刑事さーん、ホントに彼女なんているの?架空じゃなくて?」
「もう戻ってくるって、ほら!桜月!」



テラス席とは言え、店先で人の名前を大声で呼ばないで欲しい。
そんな私の思いなど知る由もない彼は一生懸命手招きをして私を呼んでいる。
名前まで呼ばれて知らんぷりもできず、小さく溜め息を吐いた後で先程座っていた席に着く。



「お待たせ……こちらは?」
「モアメタルDEATH!」
「スゥメタルDEATH!」
「………初めまして、高宮桜月です」



何かこれ前に見たことあるなぁ……藍が大量にメロンパン買い込んで来た日だったような……。
そんなことに思いを馳せていたら目の前の女の子達がキャーキャー言い始めた。



「ホントにいた!彼女いたんだ!」
「だからいるって何回も言ってんじゃん!」
「妄想だと思ってたー!」



楽しそうで何より。
この二人は誰なのか、私はまだ答えをもらっていない。
少なくとも藍の関係者であることは間違いないけれど。
ちらりと彼を見遣れば、目線に気づいたようで苦く笑われた。



「前に事件起きた時にいた目撃者?
ん?目撃はしてないから、ちょっと話聞いた家出少女達?」
「……そういうこと」



家出少女の話は少しだけ聞いたことがあった。
この子達のことか。

騒ぐだけ騒いだ彼女達。
『今はとりあえず大丈夫だからー!もう一人の刑事さんにもよろしくー!』と賑やかに去って行った。
若いなぁ、私も彼女達の頃はあんな風にキャーキャー騒いでいた……いや、どうだったかな。



「桜月?」
「ん、あぁ……ごめん、そろそろ出よっか」



何となく気分が晴れないままなのはどうしてだろうか。

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