MIU404

□プレゼント
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街中がイルミネーションで煌めいて、通りを歩く人誰もが何となく浮足立つこの時期。
昼過ぎから桔梗さんの家のクリスマスパーティーにお呼ばれした。
桔梗さんが何故か用意してくれたサンタ服を模したワンピースにハムちゃんと共に着替えさせられて、どこぞの馬鹿が『きゅるきゅる』発言を連発。

挙げ句の果てには志摩さんや九重さんには見せちゃダメ、とどう考えても無理な発言まで炸裂。
これが素面だというのだから困りものだ。
アルコールはハムちゃんが用意してくれていたのだけれども、藍は何故か手を付けないので私も何となく手を付けずに料理だけを美味しくいただいた。



「ご馳走さまでした」
「桜月ちゃん、片付け手伝ってもらっちゃってごめんね。ありがと」
「ううん、また連絡するね。桔梗さん、服ありがとうございます……」
「いいえ〜、また遊びに来てね〜」



アルコールが入って潰れてしまった男性陣は適当にタクシーで帰すと言うので、片付けをした後で先にお暇させてもらうことにした。
『私からのクリスマスプレゼント』と先程着ていたサンタワンピースをお土産に。

日が落ちると急に冷え込む。
手袋持って来れば良かった、と手を擦り合わせていたら『ほい、こっち』と彼のジャケットのポケットの中に右手を引き込まれた。



「うわ〜、手冷た」
「末端冷え性だもん」
「じゃあ暖めてあげる〜」



ポケットの中で指を絡められて、じわりと彼の手の温もりが自分の指先に移ってくるのが分かる。

何となく気になっていた。
今日の藍はやけに静かだ、と。
勿論、志摩さん達の前では賑やかにいつものように楽しげだったけれど、ふとした瞬間に見せる表情がどこか違って見えて。



「藍、?」
「んー、どした?」



それはこちらの台詞である。
柄にもなくセンチメンタルな表情を見せるなんて。



「藍こそ、」
「ん?」
「何考えてるの?」
「……んー、バレバレ?」
「何年一緒にいると思ってんの」



バレバレか〜、と笑う彼の横顔はどこか寂しげで思わず絡められた指先に力が篭もる。
それに気づいた藍が笑いながら視線をこちらに向けてきた。



「何つーかさ、志摩がいてハムちゃんがいて、ゆたかも隊長もいて、陣馬さんも九ちゃんも……みーんないてさ?」
「うん、?」
「去年までは二人だったなー、って」
「……うん?」



サンタさん、彼に語彙力をプレゼントしてください。

去年までは二人だったけれど、今年は皆がいる。
だから寂しくない、……と繋がるところなんだろうけど、彼の中ではそうでないことは雰囲気から伝わる。



「機捜に来なかったら、こんなクリスマスはなかったんだよなぁ」



ぽつりと呟くように零れた言葉。
喜びに溢れているようで、その表情はどこか寂しげで。
何を思ってこの言葉が出てきたのだろう。



「藍……?」
「ごめんごめん、ちょっと変なこと考えた」
「何考えてたの?」
「大したことじゃないって」
「ねぇ、藍」



歩みを止めて、彼の名前を呼ぶ。
私の動きに倣うように藍も一歩前に踏み出した状態で動きを止めた。
前を向いていた顔がゆっくりとこちらを向く。



「教えて、ちゃんと知りたい」
「………」



何を思ってそんな顔をしているのか。
太陽のような、漫画の主人公のような、見ているこちらが元気になるようなそんな彼の憂いは何なのか。



「藍ちゃん……」
「何て言ったらいいかな〜……楽しいんだけどさ?
こう、桜月はこれで良かったかな、って」
「何、が?」
「半分無理やり連れて来ちゃったじゃん?
もしかして奥多摩にいたかったかな、って」



何を考えているかと思ったら、何を弱気になっているのか。
このやり取り、前にもした気がするけれど、まだ何か引っかかることでもあるのだろうか。
どうしたら考えていること全てが伝わるのだろう。



「……藍ちゃん」
「ん?」
「駅前のイルミネーションが綺麗なんだってね」
「あぁ、うん。密行で通ったけどちょー綺麗だった」
「ちょっと遠回りだけど見に行きたい」
「……ん、分かった」



彼の不安には答えを出さず、笑って話題を変える。
それを察したのか藍も笑みを返して私の提案に乗ってくれる。
今すぐには言わない。
ちゃんと藍に伝わるような言葉を考えてなくては。

いつもなら何かしらの話題を振って、会話が途絶えないけれど、今はただ手を繋いで言葉もなく歩く。





































「わ……すごい」
「ちょー綺麗だよな〜」



歩くこと15分。
駅前に着くと街路樹がイルミネーションで装飾されて、美しくライトアップされている。
其処此処がカップルや家族連れで賑わっていて人の波に飲まれてしまいそう。

先程までとは違う沈黙。
しばらく煌めくイルミネーションに目を奪われる。



「ね、藍ちゃん」
「ん?」



雑踏の中で繋いだ手を引いて名前を呼べば、ゆっくりと屈んで会話しやすいように顔を近づけてくれる。
ほんの少しの気遣いに胸の奥が温かくなるのが分かる。



「こっちに来なかったら、きっとこんなイルミネーション見られなかったよ」
「……うん」
「だからさ、こっちに来て良かったんだよ」
「……そういうモン?」



珍しくちょっと苦笑気味に笑って視線が絡まる。
そう、答えは簡単。
難しく考える必要なんてない。



「だって、志摩さん達と出会って悪かったことなんてないでしょ?」
「……ん、」
「二人で過ごすクリスマスも楽しいけど、皆で賑やかに過ごすのも楽しいよ」
「そうだな〜……」



イルミネーションの明かりに照らされて、少し表情が和らいだのが分かる。
確かに向こうに置いて来たものもある。
けれど、それ以上に得たものがたくさんあるから。

損得を数えるものではないことは分かっている。
それでも彼が機捜に来たことに、私が奥多摩を出てきたことに、悪いことなんてなかったから。



「それに言ったでしょ?
私には藍のところしか行くところがない、って。藍がいなかったらあの家にいても意味ないもん」
「……ん、」



ようやくいつもの笑顔が戻ってきた。
ちょっと安心していたら、繋いでいた手を引かれてぎゅうぎゅうに抱き締められる。



「ちょっと、藍……!」
「10秒だけ。
……ありがと、桜月。ちょー愛してる」
「っ、」



きっかり10秒で離れていった藍の笑顔はこれまで見たことない程に晴れやかで、心臓を撃ち抜かれるとはまさにこのこと。
間違いなく真っ赤になっている私を尻目に鼻歌を歌い出しそうな彼がにこやかに口を開いた。



「じゃあ帰って飲み直すか〜、隊長んちで全然飲まなかったじゃん?」
「それ、飲み直すって言わない」
「プレゼントもまだ渡してないじゃん?」
「当番勤務帰って来て、すぐに桔梗さんのところに行くって言ったの藍でしょ」



恥ずかしさの余り、口調がぞんざいになってしまうのは致し方のないこと。
そんなことは織り込み済みのようでニコニコしながらイルミネーションの下を歩いていく藍。
手を引かれる形で一緒に歩くのは仕方がない。



「ねぇ、」
「ん?」
「もう変なこと考えないでよ」
「ん、りょ〜かい」
「きっかけは藍の異動だったけど、私の意志でこっちに来たんだから」
「桜月」
「だから藍が悩むことなんてないの」



そう、彼には笑っていてほしい。
口には出さないけれど、彼が笑顔でいてくれることが何より大切だから。


*笑顔が何よりのプレゼント*
(そういや、桜月?)
(ん?)
(メリクリ〜)
(……はいはい、メリクリメリクリ)
(二回言うなって。帰ったらプレゼントな)
(ん、楽しみ)
(あと、)
(ん?)
(隊長からもらったワンピース着てキャッキャウフフ、いっぱいしよ?)
(………言い方にムードがないからやだ)
(んん〜、むじいな〜)


fin...


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