MIU404

□初めて
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『1機捜本部から機捜404』
「はい、機捜404です。どうぞ」
『…………あぁ、そうか。今日は高宮が404か』
「はい、志摩さんの代わりに」
『伊吹に何かされたらすぐ無線入れて』
「隊長〜、何かって何すかー!?」
「ふふ、ありがとうございます。
ところで隊長、どうされました?」



普段は事務要員の私だけど、本日体調不良で急遽お休みになった志摩さんの代わりに、初めて機捜車に乗って重点密行に出ている。
隣の運転席には勿論、404の伊吹さん。

少し緊張しているのは重点密行が初めてだからか、車という密室に伊吹さんと二人だからか。
無線から聞こえる桔梗隊長の指示に従い、指定された現場へ向かう。
伊吹さんの運転する姿を見るのは初めてで、気を抜くとじっと見入ってしまう。



「桜月ちゃん?」
「、はいっ」
「伊吹さんカッコいいからって見すぎ見すぎ〜。
俺、穴開いちゃう〜」
「っ、すみませんっ」
「うーん、否定されないと逆に困るなぁ」
「え?」
「んー、こっちの話」



桔梗隊長から指示された現場は男性同士による喧嘩口論の入電があり、野次馬の整理で駆り出された。
現着すればどうやらバイク乗り同士の揉め事の模様。
野次馬整理の合間に漏れ聞こえた内容から察するに『俺のバイクのがすごい』というところが事の発端らしい。
気持ちは分かるけれど、そんなことで警察沙汰になるほどの口論は止めていただきたい。



「え、桜月ちゃん?」
「ちょっと行ってきます〜」
「えっえっ」



野次馬も粗方片付いたので、警官に仲裁されているにも拘らず未だに興奮冷めやらぬバイク乗りの男性二人の元へ。
というよりはその傍らに停めてあるバイクの元へ。

さっきから気になっていた。



「バイク、カッコいいですね」
「あ?」
「ホンタのCBLにカワザキのZ9000SRですね〜」
「……姉ちゃん、バイク乗るのか?」
「休みの日は天気が良ければツーリングに」
「分かる口じゃねーか」
「えぇ、まぁ」
「ちょっと、桜月ちゃん」
「大丈夫ですよ、少しだけ」



後を追いかけてきた伊吹さんに笑いかけた後で、マフラーとハンドル、それとフレームの位置を確認。
ざっと目視しただけでも、私の知っている規定の大きさとはだいぶ異なる。
ついでに言えばホーンもきっと改良……というより改造されているはず。

心配そうな伊吹さんにもう一度笑顔を向けてから、揉め事を起こした二人へと向き直る。



「こちらのバイク、記載変更もしくは構造変更の申請は当然されていますよね」
「…………」
「私の知っているものとは少し大きさが異なるように見えますが。
それとクラクションも……」
「いやいや、申し訳なかった!」
「こちらこそカッとなってしまって!」
「じゃあお姉さん、解決したんで俺らはここで!」
「……そうですか?ナンバーは控えさせていただいていますので、無茶な運転や暴走行為にはお気をつけて。
安全運転でお願いしますね」



伊吹さん含むその場にいた警官達がポカンとする中、慌ただしく握手を交わしてからバイクに跨って逃げるように走り去ったバイク乗り達。
あぁ、やっぱりマフラーは違法改造だな。
もう少し突いたら絶対別件でお話聞けたと思うんだけどなぁ。



「桜月ちゃん?」
「あ、すみません。行きましょうか」
「いや、あー……うん」



物言いたげな伊吹さん。
聞きたいことは何となく分かるけれど、とりあえずここは寒いので機捜車に戻りたい。
……機捜車に戻ったところで、エアコンが壊れているあの車内は正直寒い。
話には聞いていたので寒さ対策はしっかりしているけれど、夕方に差し掛かってきた先程の車内ですら寒かったのに、これから夜になったらどうなってしまうのだろう。
エンジンをかけて再び密行へ。
1機捜本部に無線を入れてから車が出発。



「桜月ちゃんってさ」
「はい?」
「ホントにバイク乗るの?」
「あぁ、さっきの話ですか?本当ですよ。
父の趣味がツーリングで、その影響で私もバイク乗りなんです」
「へぇ〜、知らなかった〜」
「404が密行に出てる時、たまに桔梗隊長におつかい頼まれてバイクで他の署に行くこともありますよ」
「マジで?今度桜月ちゃんのバイク乗ってる姿見てみたいわ〜」



社交辞令として受け取っておこう。
私が404号車に乗ると知ったらしい体調不良の志摩さんから『伊吹の言葉は話半分で聞いておけ』とLIMEが送られてきた。
短い付き合いではあるけれど、彼の言葉を額面通りに受け取っていたら確かに身が、というより私の場合は心がもたない。
しかしながら彼の言葉に一喜一憂してしまう自分が何とも情けない。


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