MIU404

□二人きり
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今夜は雪が降るらしい。
そんな話を天気予報で言っていた。
寒いのが嫌いな桜月は早く暖かい季節になってほしいとぼやいてた。
コンビニに行って来る、と告げれば『あんまん食べたい』と言いながら毛布に包まり始めた桜月。
きっと帰って来る頃には部屋の暖房は設定温度が上げられて、俺からしたら暑いくらいの温度になっていそう。
風邪ひかれるよりはいいから、桜月の快適な温度でいいんだけど。



「たっだいま〜」
「……おかえり」
「そんなに寒い?」
「寒い」



頼まれたあんまんと、桜月の好きなミルクティーと本来の目的のコンビニ限定のビールとつまみを買って部屋に帰れば、予想通り暑いとさえ感じる室温になっていた。
厚手の毛布に包まって手足を擦っている桜月の姿にちょっと笑ってしまった。
それを見逃さなかった桜月がちょっと膨れたのが分かる。
きゅるきゅるって思っただけなんだけどな〜。



「俺はそうでもないんだけどなぁ」
「……藍は子ども体温だからね」
「そういうこと言う子は藍ちゃん湯たんぽで温めてやんなーい」
「……いいもん」



出た、ツンツン。
そういうとこもきゅるきゅるなんだけど、すーぐそっぽ向くからなぁ。
嫌いじゃないけど、もうちょっと素直になってもいいのにね。
完全に俺に背中を向けて膝を抱えた桜月を後ろからぎゅうぎゅうに抱き締めれば、腕の中でもぞもぞと動いて顔を出す。



「…………何よ」
「湯たんぽしないなんて、うーそ。
外出て寒いから俺も中入れて?」



コンビニの行き帰りで走ってきて帰ってきたら部屋は暖房ガンガンついてて、本当は寒いどころか暑いくらいなんだけど。
こうでも言わないと話聞いてくれなさそうだからなぁ。
ちょっと黙り込んだ後で膝を抱えながらかぶっていた毛布を少しだけ広げてくれた桜月。
隣に潜り込んで毛布を被れば、狭いって不満そうな声。
でも、さっきのツンツンしたふいんきがちょっと柔らかくなったのが分かる。



「んふふ、あったけ〜」
「ねぇ……雪、降るかな」



俺の言葉なんて聞こえてないように窓の外を見ながら、ぽつりと呟く桜月。
別にいいけど、別にいいんだけど……たまにちょっと寂しい。
それでもツンツンしたまま話聞いてもらえないよりは全然いい。



「どうかな〜。予報だと降るらしいけど」
「寒いの嫌いだけど、雪は好き」
「ん?何で?」



寒いから雪降るのに。ムジュンしてない?
そんなこと考えてたら、隣に座る桜月がごそごそ動き出して、横から抱きついてきた。
んー……きゅるきゅる。
今言ったら絶対即行で離れていきそうだから絶対言わないけど。



「雪が降る時ってすごく静かになるじゃない?
あの感じが好き。世界に一人だけ、みたいな感覚」
「へぇ〜……」



確かに奥多摩にいた頃、寒くなると雪降ってきてその度にすげー静かだなって思ってたけど、桜月がそれが好きってのは初めて聞いたかも。
その感覚は何となく分かる気はする。
でも、その『世界に一人だけ』って何かヤだ。

肩を抱き寄せれば驚いたように桜月が顔を上げた。
隙だらけの顔にキスを落とせば、驚いたように見開かれた目。
その表情は怒ってるって言うよりも驚いてる方が強い。



「……藍?」
「それ、俺も入れてよ」



世界に一人、なんて言わないで。
そんなことさせたくないし。
実は意外と寂しがりな桜月が世界に一人なんて、きっと耐えられないはずだから。
それに桜月がいない世界なんて俺には意味なんてないから。



「え?」
「世界に一人、じゃなくて世界で二人、がいいな」
「……ばか」



そう言いながらも至近距離で見つめた桜月の顔はどこか嬉しそうに見えたのは俺の気のせいではないはず。


*二人きり*
(桜月、あんまん食べよ?)
(ん、食べる)
(あとミルクティーも買ってきた)
(……藍ちゃんは私を甘やかすのが上手だよね)
(当たり前じゃん?俺だけの特権だし、他の奴には絶対ダメ)
(……ばか)
(桜月バカだもーん)
(本当にバカ!)


fin...


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