MIU404

□大切な日
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「え、藍ちゃん今日誕生日なの?」
「そうそう〜」
「…………」
「桜月ちゃん?」
「帰る。勤務終わったら、いつも通りうち来るでしょ?」
「ん?うん?」
「後でね」



何の話からだったか、学校帰りの桜月ちゃんと誕生日の話になって。
今日俺の誕生日だって話をしたら急に黙り込んだ桜月ちゃん。
そして急に帰って行った。
何だろ、宿題でも忘れてたかな。



「誕生日かぁ……」



昔から別にいい思い出はあんまりない。
俺んち貧乏だったから盛大なお祝いとかなかったし誕生日らしいことって言ったら、ちっちゃいケーキ食って終わり。
プレゼントとかもその頃流行ってたゲームとかは買ってもらえなかったし、ただ一つ年を取るだけの日、って感じ。
警察学校出てからなんて尚更。
誕生日祝うとか、仲良くなる前に異動っていうか飛ばされてたし、別に自分でケーキ買うこともなかった。

今年もそんな感じで終わると思ってた。
























「おっ邪魔しま〜す」
「藍ちゃん、ちょっと待って」
「ん?うん?」
「おじいちゃん、藍ちゃんと縁側で遊んでて」
「おい」
「お願いね」



勤務時間が終わって、いつも通り裏の高宮さんちに行って玄関を開ければ、桜月ちゃんが慌てた様子で台所から出て来て、家の中に入るのを止められた。
そのまま回れ右させられて、庭から縁側に行くように追いやられる。
何でかおやっさんまで。
さすがにちょっと分かんなくて、おやっさんを見れば溜め息を吐きながらビール瓶とコップを二つ持って縁側に座り込んだ。
とりあえず隣に座らせてもらう。



「まずは飲め」
「あ、いただきまーす」
「ん」



注いでもらったビールを一口飲めば、口いっぱいに広がる苦味。
この一杯の為に仕事してる感じ。
同じようにビールを飲んだおやっさんがもう一度溜め息を吐いた後でゆっくりと口を開いた。



「お前、今日誕生日なんだってな」
「あ、桜月ちゃんから聞きました?
そうなんスよ〜、でも昔から誕生日に何かする習慣とかないんで今日もフツーに過ごしてました」
「……だからか」
「はい?」



妙に納得したようなおやっさんの呟き。
俺、なんかした?
そんなこと考えてるのが顔に出てたみたいで、おやっさんは何でか困ったような顔してた。



「桜月が両親を事故で亡くしてるのは知ってるな」
「何か小学校の頃に亡くなったってのは聞きました」
「……桜月の、誕生日だったんだ」
「え、?」
「桜月の両親が事故に遭ったのは桜月の誕生日の日だった」
「マジっすか……」
「急に喪う悲しさを知ってるからなのか、誕生日が両親の命日になったからかは分からんが……アイツは人の誕生日を大事にする」

「おじいちゃん、藍ちゃん?」



何て言ったら分からなくて黙ってしまっていたら、家の中から不意に声をかけられた。
振り返ればエプロン姿の桜月ちゃんがどこか楽しそうにこちらを見ていた。



「ご飯、用意できたよ」
「あぁ、続きは向こうで飲むぞ」
「おじいちゃんはもうビールおしまいです」
「何?」
「おばあちゃんがおじいちゃんは飲み過ぎないようにしないとね、って言ってるもん」
「今日は伊吹の誕生日だろう」



謎なビールの攻防を聞きながら、おやっさんと俺が使ってたコップとビール瓶を持って二人の後に続く。
何だかんだ言いながら桜月ちゃん、おやっさんのこと好きだよなぁ。



「お待たせしちゃってごめんなさいね、藍くん」
「うわ、ちょー美味そう。めちゃめちゃごちそう〜」
「もっと前に言ってくれたら、もっと色々用意できたんだけどねぇ」
「由布子さん、ありがと。俺、ちょー嬉しい」



由布子さんと桜月ちゃんがちょー頑張って作ってくれた料理がテーブルいっぱいに並んでる。
これが全部俺のため、って思うとめちゃめちゃ嬉しい。
『いただきまーす』って手を合わせたら『その前に乾杯』って桜月ちゃんに怒られた。

結局、おやっさんはビールもう一杯だけもらって、由布子さんはめちゃめちゃ楽しそうに次々に料理出してきて。





































「桜月ちゃん」
「あ、ごめんね。結局片付け手伝ってもらっちゃって」
「ぜーんぜん?」



夕飯の片付けは大体桜月ちゃん担当。
俺も何だかんだで手伝うことが多い。
ごちそうになってるし、食費払うって言っても受け取ってくれないから少しくらい恩返ししないと。
ちなみにおやっさんと由布子さんはもう部屋に戻ってて、もしかしたらもう寝てるかもしれない。



「よし、これで終わり」
「お疲れお疲れ〜」
「ん、ありがと」
「ほい、じゃあ休憩〜」



勝手知ったる高宮さんちの冷蔵庫を開けて、麦茶を二人分用意する。
ありがとう、と受け取りながらも首を傾げて何でか不思議そうな桜月ちゃん。

俺、何か変なことしたか?
そう思っていたら、俺の手元に視線が集まっているのも分かる。



「桜月ちゃん?」
「ねぇ、藍ちゃん」
「ん?」
「誕生日、おめでとう」
「うん、ありがと」
「おばあちゃんも言ってたけど…………もっと前に教えてくれればよかったのに。
そしたら料理だってパーティーメニューにできたし、プレゼントだって用意できたのに」



何かちょっと機嫌悪い?
というか何かちょっと拗ねてるっていうか……何かいつもとちょっと違う気がする。
居間に向かう桜月ちゃんの後を麦茶のコップを持ったまま追いかける。
そういえば今日の夕方、交番で話してた時も何かこんな感じだったかも。



「桜月ちゃん?」
「藍ちゃん、おめでと」
「うん、ありがと」
「……今度、プレゼント買いに行こ」
「え、いいよ〜。バイトできない子からは貰えないって」
「買いに行こ」
「桜月ちゃん?」
「お祝い、させて?」



いつの間にか隣に座ってた桜月ちゃんに服の裾を掴まれた。
顔は見えないけど、何となく悲しい顔してるのがふいんきで分かる。



「ん、ありがと」
「藍ちゃん」
「うん?」
「私ね、自分の誕生日にあんまりいい思い出ないんだ」
「そっか……」
「だからね、その分知ってる人の誕生日は大事にしたい」
「うん」
「藍ちゃん」
「うん?」
「誕生日、おめでとう」



そう言って顔を上げた桜月ちゃんの笑顔はどこか寂しげで、でもめちゃめちゃキレイだった。
きゅんきゅんしちゃって思わずハグしたら鳩尾に重いパンチを食らった。


*大切な日*
(いってぇ……いいパンチ……)
(あ、ごめん。急だったからつい)
(つい、で出るパンチじゃない……)
(ごめんね、おじいちゃんに昔から不審者に会ったらとにかく鳩尾か急所狙えって)
(俺、不審者?!)

fin...


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