MIU404

□ご機嫌な彼女
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今日は桔梗さんの家に401と404が集まって飲み会。
そして勿論、伊吹の彼女の高宮さんも一緒に。
彼女の場合は伊吹と付き合っているから、というよりも桔梗さんの家にいるハムちゃんと仲が良いから、という理由の方が大きいかもしれない。

飲み会が始まって三時間は経過しただろうか。
気づけばいつの間にか隣に高宮さんが座っていて。
これを伊吹が見たら面倒だな、なんて思って相棒の姿を見れば部屋の奥で陣馬さんと肩を組みながら楽しそうに歌っている。
これなら安心とも思ったが、彼女が絡むと捻くれた考えにしかならない相棒がどう言いがかりをつけてくるか分からない。
しかしながらそもそもの話、伊吹の彼女に興味はない。
興味がないというのは語弊があるが、伊吹の彼女だから、ではなく人の彼女に手を出す気はなくて。
何よりも伊吹はそう捉えていないらしいが彼女自身、伊吹以外の男が見えていないのだから手を出す出さないの次元の話でもない。

そんな俺の考えを知る由もない高宮さんは反対隣にいるハムちゃんと楽しそうに談笑している。
これなら大丈夫か、と内心安堵しながら新しい缶ビールに手を伸ばしたタイミングでゆたかがハムちゃんと寝る、と言い出して。
高宮さんに一言謝ってからゆたかを寝室へと連れて行ったハムちゃん。

急に隣が静かになり、俺は悪くないのに気まずく感じてしまうのは何故だろうか。
ちらり、と横目で高宮さんを見れば缶チューハイを持ったままで俯き加減の彼女が目に入った。



「……高宮さん?」
「んー……志摩さーん」
「はい?」
「飲んでます〜?」
「え、あ、はい。飲んでますけど……」
「ふふふ〜、私も飲んでます〜」
「高宮さん?」



様子がおかしい、と言っていいのだろうか。
そう形容していいほどに彼女のことを知っている訳ではないけれど、俺の知る限りの彼女はもっと静かに笑う人で、伊吹とは真逆の……理性的な人。
そんなイメージのある人がふわふわとやけに楽しそうな表情を浮かべていることに違和感を覚えるのは致し方のないことではないだろうか。

…………もしかしたら彼女は今、酔っ払っているのでは。
だとしたら辻褄が合う。
確かに先程までハムちゃんと楽しそうに話していた気分そのままにこちらへと意識を向けているのも間違いではないだろう。
しかしながらそれよりもアルコールが回っているから、と言った方がしっくり来る。

そんなことを考えていたら、手にしていた缶チューハイを飲み干したらしい彼女が新しい缶チューハイへと更に手を伸ばした姿を視界の端に捉えた。



「あの、高宮さん」
「ん?」
「その……そろそろ酒は止めておいた方がいいんじゃ……」
「え〜?何でですか〜?」



『私、納得していません』と言わんばかりの表情をこちらへ向ける高宮さん。
年相応、寧ろ年齢よりも幼く見えるその表情。
あぁ、これが伊吹のいう『きゅるきゅる』かと変に冷静な頭で考えてしまう。
…………いや、だから別に彼女に興味があるとかではなくて。
事あるごとに……寧ろ何もなくても彼女自慢を始める伊吹の言っていることが小指の爪の先ほど理解できた気がした。

彼女と同じくして酔いの回った頭でそんなことを考えていたら、突如としてふわふわした笑顔が視界から消えた。
……正確には、彼女の頭上から降ってきた白い布、伊吹の着ていたジャケットが彼女の頭にかぶせられて。



「んー、何〜……?」
「はい、そこまでー。ほら、桜月帰るよ」
「えー?なんで〜」



突然、視界が奪われた高宮さんが不満そうにジャケットの中から顔を覗かせた。
彼女と伊吹の視線が絡むとどこか困ったような様子が伊吹の横顔から窺える。
こんな顔をするのも珍しい。
そんな自分の考えなど知る由もない伊吹と高宮さんはまるで俺の存在などいないかのような素振りで会話を続ける。



「飲みすぎ〜」
「やだ、まだしまさんとおさけのむ」



一応俺の存在は忘れられていないようだ。
いや、そこはどうでもいい。
先程よりも高宮さんの呂律が回らなくなっているような気がするのは考えすぎではない、はず。
アルコールの量が多かったのか、それとも伊吹が来たからか。
それを自分が知る術はない。

ちらり、とこちらへ視線を移した伊吹。
彼女が絡むと執着に近い嫉妬を見せる相棒を考えると、疚しいことが何もなくても少し身を引いてしまうのは致し方のないことではなかろうか。



「帰ったらまた飲んでもいいから。帰るよ」
「おい、伊吹」
「俺ら帰りまーす。お邪魔しました〜」



それ以上飲ませたら危ないだろう、と止める前に高宮さんを抱えるようにして立ち上がらせて玄関へと向かっていく伊吹。
ひら、と片手を挙げたのは挨拶か、それともこれ以上はついて来るなという牽制か。















































「あいちゃんひどい。たのしかったのに」



ふわふわしながらも足取りは割としっかりしてる桜月の手を捕まえたまま、少しだけ前を歩いていたら不満そうな声が後ろから聞こえてきた。
振り返って見れば想像した通り、ちょっと膨れっ面の桜月と目が合う。
桜月が楽しそうにしてたところを無理やり連れ出したのは悪いと思ったけど、



「ダメ、そんなきゅるきゅる魔人をあれ以上志摩の前に置いとけない」



あれ以上放っておいたら家飲みとかハムちゃんと飲んだ時みたいに記憶なくすくらい酔っ払いそうで。
つーかもう、半分そんな感じになってて。



「んん〜……やきもち?」



へらっ、と首を傾げながらいつもよりも笑顔度数の高い顔の桜月にグラグラして負けそう。
いやいやいや、負けちゃダメ。
ここで負けたらいつもの俺。
今日はちょっと一言くらい言っておかないと。
さっきだってめちゃめちゃ志摩の近くに座ってて何か楽しそうに喋ってたし、いくら皆で飲んでる時だからって油断しすぎ。



「桜月がきゅるきゅる魔人なのが悪い」
「ふふふー、あいちゃんのやきもちやき〜」



ちょーご機嫌。
めちゃめちゃ楽しそうに俺の腕に絡みついてきて。
ヤキモチ妬いてるのも全部お見通し。
酔っ払いだけど敵わない。
……酔っ払いだから余計に敵わない?
そんなことを考えていたら、ご機嫌な桜月の笑い声がまた聞こえてきて。



「ん?」
「でも、そういうとこすき〜」
「…………桜月のそういうとこ、ホント反則〜……」



あぁ、やっぱり今日も俺の負け。
こんなのズル過ぎ。

もうどうしようもなくて、ちゅーしておくことにしよう、ときゅるっきゅるな桜月をとりあえず抱き寄せることにした。


*ご機嫌な彼女*
(頭、いたい……)
(昨日めちゃめちゃ飲んでたもんな。はい、水)
(ありがと……途中からあんまり覚えてないかも……)
(やっぱそうだよなぁ)
(私、何か変なことしてなかった?)
(んー……きゅるっきゅるしてた)
(答えになってない……)


fin...

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