パロディ

□こんにちは、赤ちゃん
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「ねー、藍ちゃん」
「んー?」



勤務明けの非番。
仮眠から目が覚めてもベッドから起き上がらずにぼーっとスマホ弄ってたら、トイレから出て来た桜月に名前を呼ばれた。
よっこいしょ、と体を起こせば手に持った何かを見ながらこっちの部屋に来る桜月。



「どしたー?」
「赤ちゃんできた」
「へー、赤ちゃん…………赤ちゃん?!」
「大きい声出さないでよ、びっくりした」
「いやいやいやいや、桜月?
そんな『夕飯何にする?』みたいなノリで言うモンじゃないって!!」
「だって生理遅れてたし、高温期続いてたからたぶんそうだなって思ってたし」



ほら、と見せられたのは細長い白い棒。
青い線が二本。
パッケージの陽性反応の写真と同じ。

え、マジで?
桜月に赤ちゃん?



「明日病院行くけど、検査薬で陽性出たらほぼ確定だって………藍?」
「やっべ、ちょー嬉しい。え、男?女?名前は?どうする?」
「まだ早いって……」



呆れたように言うけど、桜月の顔もめちゃめちゃ嬉しそうで。

4機捜に異動になって3年。
何だかんだようやく去年結婚して。



「マジかー……」
「あ、志摩さん達にはまだ言わないでよ?」
「何で?!」



今度の当番勤務の時まで待てないから今すぐLIMEしようと思ってたのに。
志摩だけじゃなくてハムちゃんにも隊長にも、陣馬さんも九ちゃんも。
そう言えば、やっぱり……と大きい溜め息。
その後で妊娠初期は何があるか分からないからせめて安定期までは黙ってて、だって。
安定期っていつ?



「俺似ならちょー元気だから大丈夫だよなー?」
「とにかく、明日病院に行くから。お願いだからまだ言わないで」
「………分かった」



次の日、病院で診てもらったら妊娠7週だって。
一緒にエコー見せてもらったけど、豆粒みたいなの。ちょー可愛い。
心臓がピコピコ動いてんのも見えた。



「ちょー感動なんだけど……」
「ね、でも何か不思議な感じ」
「んふふー、でも何かちょー幸せじゃん?」
「そう、ね」
「ん?」



帰って来て二人でエコー写真見てたら、隣に座ってる桜月の顔色が悪い。
口元とお腹押さえて、しかめっ面してる。



「どした?お腹痛い?」
「いや………ちょっと、気持ち悪い」
「はっ、まさか……?!」
「ドラマ見過ぎ。っていうか、妊娠してるし………あ、無理」



バタバタとトイレに駆け込む桜月。
あれ、もしかしてこれがつわりってやつ?
今まで大丈夫だったのに急に?



「桜月ー……?」
「ごめん……とりあえず今は落ち着いた……」
「大丈夫?病院行く?」
「ん……たぶんつわりだから、大丈夫。
助産師さんももしかしたらこの後で始まるかも、って言ってたし」



そんな真っ青な顔して言われてもなぁ……。
陣馬さんが妊娠出産は男は無力だ、って言ってたのってこういうことなのかな。
すげー辛そうなのに何もできない。



「藍、」
「ん?どした?」
「レモンとグレープフルーツ買ってきて」
「オッケーイ!」



俺にできることなら何でも!

ルビーグレープフルーツの方が美味そうだったから買っていったら、普通のやつが良かったって怒られた。
いつもなら『仕方ないなぁ』って言われるとこだけど、妊婦むじい。



































「あ、動いた」
「えっ、どこどこ?」
「ここ」
「んー………?」



安定期に入ってもなかなかつわりが終わんなくて。
長いつわりの時期が終わったのは妊娠6ヶ月になった頃。
体調落ち着くまで待って、と桜月に言われてたからずーーっと我慢してた。
やっと志摩達に言えたと思ったら、皆気づいてたっぽい。
確かに隊長の家の飲み会に桜月も俺も行かなくなったし、俺はずっとそわそわニヤニヤしてたんだって。
そんな話を帰ってからしたら、桜月はそんな気はしてた、って笑ってた。

で、つわり落ち着いたらお腹も大きくなり始めてて、桜月は結構前から胎動感じてたって言うんだけど………



「えー?どこ?」
「何で藍が触ると動かなくなるのかなぁ……」



帰って来るまでぐるぐる動いてたんだよ?って桜月は笑うけど……何で俺には動いて見せてくれないんだろ。
ちょー楽しみなのに。



「パパ寂しー」
「ですってよ〜?」
「「あ、」」



桜月のお腹に顔くっつけてたら、ぐにってなった。
顔上げて桜月と顔を見合わせたら、良かったねぇパパ?って幸せそうに笑う桜月。
やっと分かった、すっげー嬉しい……!
今蹴ったところに手を当てたら、もう一回ぐにって。



「やっべ、ちょー嬉しい」
「藍、妊娠分かってから語彙力が更に低下してない?」
「だって、ちょー嬉しいじゃん」



何て言ったらいいか分かんないくらい嬉しくて、幸せな気分。
桜月はどんどんお母さんの顔になっていくし、お腹はどんどん大きくなってきててエコー見るとどんどん人間の形になっていくし。
しかもこの前の健診で女の子で間違いないって言われたし。



「名前、どうしよっか〜」
「うーん……藍は何か考えてる?」
「俺はねー、もう考えてる」
「何て?」
「女の子だったら、桃ちゃん」
「伊吹、桃……」
「そ、桃ちゃん。可愛くない?」


もう一回、名字と名前を合わせて声に出す桜月。
ダメかなー、きゅるっとしてると思うんだけどなー。
そんなこと思ってたら、桜月が『いいね、桃ちゃん』ってふふっと笑った。
産まれてから顔見てからもう一回考えよ?って言うけど、たぶん桜月の中でも大体決まりっぽい。



「桃ちゃーん、早く出ておいでー」
「まだ早いって」


お腹にくっついて話しかければ、頭をぺしっと叩かれる。
あー、もうマジで幸せ。


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