パロディ

□特別な日
1ページ/2ページ


「桃ちゃん、誕生日おめでとー!」
「桃、お誕生日おめでとう」
「うー?」
「 ねぇねぇ桜月、 今『おめでとう』の『う』言ったよ?
桃ちゃん天才じゃね?」
「…………お馬鹿なパパは放っておいてケーキ食べようね」
「ひどくね?」



今日は娘の桃の一歳の誕生日。
運悪く当番勤務になっていた藍は有給休暇を申請して朝から部屋の飾りつけを買って出てくれた。
藍の休みの日にパーティーでもいい、と言ったら『桃ちゃんの初めての誕生日は一生に一回だから!』と鼻息荒く断られてしまった。
彼の言うことももっともで、普段は意外と真面目に仕事へ行っていることを考えれば、たまに有給休暇を使うのもアリなのかもしれない。

そんな訳で藍は桃の相手をしながら部屋の飾りつけ、私はパーティーメニューの準備……と思ったけれど、絶賛人見知り中の桃にその手が通用するはずもなく。
仕方なくベビーサークルの中で不満げな声を上げている桃をいなしながら慌ただしく準備を進めるしかなかった。



「ほら、桃ちゃん。ロウソクふーってして〜」
「う?」
「まだ無理だって」
「じゃあパパと一緒にふーってしよ、ふーっ」



誕生日のケーキと言ってもまだ生クリームもスポンジケーキも食べられない桃にはホットケーキと水切りヨーグルトで作ったもの。
見た目は一応ケーキの形をしているけれど、一歳を迎えた娘でも食べられる仕様になっている。
地味にこのケーキが一番大変だった。

そうは言っても相手は一歳になったばかりの子。
そんな苦労を知る由もなく、ロウソクを外したケーキが目の前に置かれれば真っ先に大好きな苺に手を伸ばしている。
右手で鷲掴みをしたと思えばおもむろに口に運ぶ。
四等分に切っておいたとは言え、小さな口いっぱいに頬張る姿は何とも可愛い。
隣に座って娘の食事姿を見つめる彼も同じことを考えていたようで、頬を緩ませながらスマホを娘に向けている。



「桃ちゃーん、こっち見て〜」
「やーぁ」
「藍、食べてるの邪魔しないであげて」
「だってさー、桃ちゃんちょーきゅるきゅるじゃん?」



娘の誕生を機に一眼レフカメラを買おうとしていた藍。
流石にそれはまだ早いのではないか、と一度は制したものの……この分だと急に『やっぱり買っちゃったー!』と言って帰宅する日が近い気がする。
生まれる前からデレデレしていたけれど生まれてからは日ごとに娘への溺愛度が増しているようで。
それでも私以外には人見知り中な桃は彼の愛に応えることはなく、彼の一方通行な愛が実る気配は今のところなさそう。



「そうだ、桃ちゃんにお誕生日プレゼント〜!」
「あ、プレゼント任せちゃったけど結局何にしたの?」
「桃ちゃんの大好きな〜?」
「う?」
「わんわんのぬいぐるみでーす」
「わんわ!」



最近桃がハマっている、というかよく見ている乳幼児向け番組の人気キャラクター、わんわんのぬいぐるみ。
『ママ』とも『パパ』とも言わないのに『わんわん』だけはっきりと呼ぶ。
それはそれで何とも切ない気はするけれど、盛大に人見知りをされている彼よりはマシ……とは口が裂けても言えない。



「あ、ほら。手拭いてから」
「わんわんー!」
「あとこっちは志摩達から〜」
「志摩さん達?」
「そ、志摩と九ちゃんと陣馬さん。
もう一つは隊長とハムちゃんから〜」



いつもなら誰かの誕生日には桔梗さんの家に集まって皆でお祝いをするところだけれど、人見知りで他の誰かがいると私から離れない桃のことを考えて今回は家族だけで、と辞退させてもらったのに。
まさかプレゼントが用意されているなんて。



「良かったねぇ、桃」
「志摩達からのは桃ちゃんの名前入りのリュックとマザーズバッグだって」
「それは間違いなく九重さんのセンスね」
「隊長とハムちゃんからはちょーきゅるっきゅるなお洋服〜」



包装紙でラッピングされたプレゼント。
いつもの要領でバリバリと破りながら中身を取り出していく藍。
どうやらプレゼントの中身は聞いていたようで、中を確認する前に何を貰ったか教えてくれた。
子どもが生まれる前からお世話になっているけれど、生まれてからはお世話になりっぱなしな気がする。
本当に感謝しかない。
桔梗さんとハムちゃんからのプレゼントはピアニッシモという子ども服のブランドのブラウス風の服と目いっぱいフリルのついた可愛いスカート。
少し大きめでこれからたくさん着られそう。
流石お母さんと保育士さん。

志摩さん達から、というリュックもシンプルでいて女の子らしい可愛いコロンとしたデザイン。
マザーズバッグもリュックと同じ素材で作られているけれど、こちらは機能的でポケットたくさん。
大きく開きやすくて使い勝手が良さそう。
九重さんと、おそらく志摩さんもチョイスに一枚噛んでくれているはず。
以前、今使っているマザーズバッグが使いにくいと愚痴ったことがあった気がする。
きっと頭の片隅に置いていてくれた志摩さんが提案してくれたのではないかと推察する。

娘の初めての誕生日に、こうしてたくさんの人が気にかけてくれて、お祝いしてくれるのは本当に有り難いものだと改めて実感する。
そしてその縁を作ってくれた、娘を溺愛している彼にも。


_
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ